外国とほとんど交流の機会がなかった時代は、それでも良かったかもしれない。しかし、この国は現在、これまでにないスピードでインフラ整備が進んでおり、正しい土木の知識が求められるようになっている。

 今後、国際水準で各国と議論を交わし、国際競争に入っていくことを考えると、この国の土木研究者が専門性を持たず、学術論文も書けないことは致命的であるのは明らかだった。

 彼らが現状を正しく把握し、何が問題かとらえ、新しい情報を押さえた上で論文を執筆し、提言できるようになるには、どうしたらいいのか――。

 悩んだ末に小池さんが思いついたのが、彼らが集まって議論したり、学会や学術会議を開催して刺激を受けたり、自分の研究論文を発表し批評を受けたりする場を立ち上げることだった。

 「本で得た知識をただ教えるだけでなく、外に出て、いろいろな人と交わり、経験を積み、研究者として刺激を受けてほしい。ゆくゆくは、土木学会の創設にもつながるといい」

 このセミナーには、小池さんのそんな思いが込められている。

 当日は、ヤンゴン工科大学のニャン ミン チョウ教授や教育省水資源管理局のキン ニニ テイン局長をはじめ、フィリピンのデラサール大学、京都大学、東京大学などからも研究者が招かれ、台風が頻繁に来襲するフィリピンにおける家屋建築や、日本の関西地方で採用されている地盤情報データベースの構築法などの講演が行われた。

 特に、ヤンゴン大学のミョー タント教授がミャンマーでこれまでに発生した地震を分析し、特にヤンゴンから首都ネピドーを通ってマンダレーに至る南北方向に走るザガイン断層に沿って周期的に大きな地震が発生している様子を発表すると、会場からはどよめきが起こった。

 当日は、YMDD調査団を代表して藤吉さんも登壇。事業の概要を説明した上で、「この調査はさまざまな実践経験を積むいい機会になる。ぜひ積極的に参加してほしい」と呼び掛けた。