実務を通じて学ぶ
高まるインフラニーズに比べ、土木人材、特に設計コンサルタントの層が薄すぎる――。こうした問題意識から、藤吉さんたち調査団は、実務を通じてこの国のエンジニアの育成にも取り組んでいる。
「このプロジェクトに参加して、設計と建設はまったく違う作業であるということが分かった」「計画や設計の段階で間違えたらすべて終わり。失敗は許されない。だからこそ、コンサルタントは十分な経験と知識を持っていなければならない」「自分は現場が好きだし、慣れているが、このプロジェクトではオフィスの中で新しいことを学んでいる」―。
ヤンゴン中央駅の2階にあるオフィスの一室で、ゾー ゾー ラットさんは、そう熱っぽく語った。半年ほど前から、このYMDD調査団に参加している。
マンダレー大学を卒業した後、地質学の専門知識を学ぶためにヤンゴンに出てきたラットさん。地元の小さな建設企業で2年間、地質調査に携わった後、大手企業に転職して地質学者として2年間勤務。
その後、5年間にわたり韓国のメーカーで機械職として勤務したものの、ミャンマーに帰国してからは、地質分野の知識を学び直したり、タイ最大手の建設企業であるイタリアンタイで地質分野の土木技術者として1年勤務するなど、自身の専門性に磨きをかけてきた。
この調査に加わってからは、地質調査に携わった後、現在は現場を回り、古いレンガ製の橋台がまだ使用できるかどうか判断する作業を行っている。
日本では通常、橋台に穴をあけて内部のサンプルを採って調べるが、この国ではそうした習慣がない。「新しい手法が学べて新鮮」だとラットさんは笑う。
もちろん、実務を通じて人材を育てると一言で言っても、簡単なことではない。現在、調査団には、ラットさんのほかに、コンピューター製図システム(CAD)のオペレーターやコストの積算担当者、環境担当者らミャンマー人エンジニアが働いているが、皆、経験不足なのが悩みのタネだ。
現在、彼らと一緒にヤンゴン市近郊のイワタジ駅に建設する車両基地の図面作成を進めているオリエンタルコンサルタンツグローバルの菊入崇さんは、「担当者たちは、学校を卒業したてで現場経験が浅い。自分が今、何の線を引いているのか理解しないまま、言われた通りに手を動かすこともしばしばで、正直、自分でやった方が早いと思うことがある」と打ち明ける。
それでも、1年半の間に実際の改修工事に向けた概略レベルの基本設計図を作成した上で、入札時に応札企業が施工方法や手順を考え、工費を見積もる根拠となる詳細設計図も仕上げなければならない今回の調査を円滑にこなすためには、前出のタイ企業だけでなく、同じオフィスで働くミャンマー人技術者のレベルアップも必要だ。
だからこそ、菊入さんも、8月以降に始まる詳細設計に向け、基本設計段階のうちに彼らに少しでも経験を積んでもらおうと、CADオペレーターに指示を出す時に混乱を避けるために元の線を消してから実際に自分で線を引いてみせたり、一つひとつ寸法を書き込んでみせたりして、辛抱強いやり取りを心掛けている。