おなじみの「クマノミ」も体の大きさによってオスからメスへと性転換していく

 生物には必ずオスとメスがいる。そう思われている方が多いだろう。しかし、この常識が通用しない生物は少なくない。生物の世界を見渡せば、メスだけの生物、両性具有の生物、性転換する生物など、性のあり方は実に多様だ。生物の性はどうしてこんなに多様なのだろうか。

メスだけの世界~フナもタンポポも

 まず、生物の世界で見られる性の多様性を紹介しよう。日本の淡水魚の代表ともいえるフナ、この多くはメスだ。母親が受精を経ずに産卵する。もちろん生まれてくる娘はすべて母親のクローンだ。ドジョウの仲間にもこのような無性生殖が多い。ヘビやトカゲにも見られる。また、植物では身近なタンポポの仲間に、無性生殖が多い。このように、無性生殖は動植物を通じて広く見られる。

 そもそも、生物が増えるためには、オスは必須の存在ではない。娘を2個体産む母親と、息子と娘を1個体ずつ産む母親の競争を考えてみよう。前者(無性生殖型)は世代ごとに倍に増えて行くが、後者(有性生殖型)は増えない。このため、両者が1対1の割合からスタートした場合、わずか10世代で有性生殖型は全体の2%まで減ってしまう。増えるという点では、無性生殖のほうが圧倒的に有利なのだ。

 ではなぜ有性生殖が広く見られるかというと、有性生殖には増殖率が低いというコストを上回るベネフィットがあるからだ。その理由として有力視されている要因は2つある。

 1つは病原体の存在だ。遺伝的に均質な子供を産み続けると、その遺伝子型に適応した病原体が進化する。病原体は世代時間が短い。世代時間というのは、生まれてから子孫をつくるまでの時間であり、人間が約30年ならば、大腸菌は約30分だ。ハイペースで世代交代をするため、宿主に適応する速度も速くなる。このような病原体に対抗する上では、有性生殖によって遺伝的な組み合わせを変えて、子供に多様性を作り出すほうが有利だ。