ゴールデンハムスター(出典:Wikimedia Commons)

 絶滅危惧種に指定される生物は、個体数でいえば“非常に珍しい生き物”です。しかし、上野動物園の元展示飼育員、大渕希郷さんの著書『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』(実業之日本社)には、動物園や水族館の人気者や、ペットブームを起こした“おなじみの生き物”までもが、名を連ねているのです。これは一体、どういうことなのでしょうか。著者の大渕さんに話を聞きました。

 品種改良で祖先が消えていく

 人に慣れ、小柄で飼育しやすく、なんといっても、その愛らしさが人気のゴールデンハムスター。1930年にシリアで捕獲された1匹の雌とその12匹の仔から繁殖し、世界中にペットとして広まったと言われています。

 その見事な繁殖力から、絶滅とは縁遠いようにも感じますが、いま現在、野生種のゴールデンハムスターの姿は、ほとんど確認されていません。国際自然保護連合(IUCN)による「レッドリスト」では、絶滅危惧種に指定されています。

大渕希郷さん(以下、敬称略) ゴールデンハムスターの棲息地は、シリアとトルコにまたがり、国の情勢が不安定な場所です。棲息地を奪われるばかりでなく、正確な個体数を把握することはできていません。とても保護や保全どころではないんですね。

 一方で、日本もそうですが、ハムスターはペット化されていろいろな品種がつくられています。人間の嗜好に合わせて品種改良を進めていけば、野生に近い姿をしたものは、いなくなってしまうかもしれません。

 ゴールデンハムスターの他にも、日本の伝統的な狩猟鳥で「ウズラの卵」として身近なウズラも、日本の環境省レッドリストでは野生種は絶滅危惧種です(IUCNでは準絶滅危惧種)。また、80年代にテレビコマーシャルで一世を風靡した、通称“ウーパールーパー”ことメキシコサンショウウオも、湖の埋め立てや汚染で野生種は激減しています。また、飼育下での交雑により、同種でも地域ごとに特有の遺伝子が失われてしまう「遺伝子汚染」の問題もあります。