それでも、ミン会長の発言に手応えを得た両氏は、「小型コンテナは日本国内のガラパゴス技術だと思っていたが、嬉しい誤算。機関車のメンテナンス技術と併せ、積極的に海外に売り出していきたい」と意気込んでいる。
制約越えて挑む企業
にわかに関心が高まりつつある貨物鉄道。しかし、前出の詳細設計調査(D/D)では、線路や橋梁の改修に加え、旅客輸送車両の近代化は検討されているものの、貨物輸送の強化に向けた車両や施設の近代化は対象に含まれていない。
官民連携(PPP)を通じて貨物車両を整備することが一部で検討されつつあるのは、このためだ。
「コンサルティング企業の役割が土木工事の設計や施工監理だとすれば、運営や維持管理など、対象国の鉄道事業の中でできること探すのがわれわれ事業者。そのためにも、こうした調査に積極的に参加し、現地とのネットワークを築くことが重要」だと西村室長は話す。
もっとも、ヤンゴンから海上コンテナをそのまま鉄道でマンダレーまで運んだ冒頭の実証実験を今後、本格化させていくためには、課題もある。
世界中のコンテナの約8割を占める40フィートハイキューブコンテナの車高が高すぎて鉄橋の下をくぐることができず使うことができないという問題や、ヤンゴンからマンダレーまで運ぶ輸入品は多く、マンダレーから運び出す貨物が少ないという“片荷”の問題だ。
それにもかかわらず、山九の福田氏が「事業として検討する余地が十分ある」と前向きなのは、マンダレーが人口約350万人を擁しているという市場性と、中国国境のムセやインド東部のインパールまでわずか500kmという物流の要衝地に位置しているという立地条件に期待しているからにほかならない。
「“今日”の“今”を見るのではなく、3年、5年、10年先にこの国がどう変わっているのかを見据えて事業に取り組んでいくことが必要。実証実験はそのための足掛かり」だと福田氏は言い切る。
長期的な展望の下で、政府の後押しを得ながらも、常に新しい展開を視野に入れ、具体的なアクションを取り続ける民間企業の覚悟の言葉だ。
隣国タイでも貨物鉄道への関心が高まっているという。ヤンゴンの政策対話の前日にバンコクで開かれた日タイの運輸次官級会合でも、トラック輸送に依存している現状への懸念と貨物鉄道の整備協力への期待が表明された。
旅客鉄道の輸出に偏りがちだった日本の鉄道輸出は、この流れを好機に変えることができるのだろうか。道路、内陸水運、航空、そして鉄道――。モード横断的な整備計画を立案・提案してみせる力が求められている。
(つづく)
本記事は『国際開発ジャーナル』(国際開発ジャーナル社発行)のコンテンツを転載したものです。