油を使わなければ真の炒め物にあらず

変わるキッチン(第13回)~炒める

2015.05.29(Fri)澁川 祐子

 さらに、中華鍋によく使われている鉄という材質もポイントだ。鉄は熱伝導率がよく、油なじみがいい金属だ。また、熱を蓄える力もあり、強度もある。錆に弱いことだけが難点だが、時間をおかずに洗剤をつけずにたわしで洗って、ちゃんと乾かせばいい。というわけで、鉄は中華鍋に限らず、フライパンなどの加熱道具にも広く使われている。

 こうした特徴を生かすためにも、中華鍋で炒めるときはできるだけ強火で手早く炒めるのがよしとされる。

 中華料理屋に行くと、中華鍋の上を色とりどりの野菜が踊り、お玉で手早く数種の調味料を加えて、あっという間に一皿が完成する。あの豪快な鍋さばきには到底及ばないが、その真似事をしているだけでも、出来上がった料理がちょっぴりおいしく感じられる。そんな気持ちのうえでの相乗効果も中華鍋にはある気がする。

油を使うことが「炒める」の前提

 中華鍋を生んだ中華料理には、炒める調理へのこだわりが強い。それが証拠に、下味や下ごしらえの方法、火力などによって細分化され、それぞれ名前がつけられている。

 たとえば、下味をつけずにそのまま材料を炒めるのは「生炒(シェン・チャオ)」。下味をつけ、片栗粉などで下ごしらえをした材料を炒めるのは「小炒(シャオ・チャオ)」とよぶ。ほかにも、1種類の食材を塩などの色のつかない調味料で味つけして炒める「清炒(チン・チャオ)」、下ごしらえしたあとに油通ししてから炒める「滑炒(フア・チャオ)」、高温の油でもって短時間で炒める「爆炒(バオ・チャオ)」など、実にさまざまだ。

 一方、日本語はというと、せいぜい油炒め、炒め焼き、炒め煮、塩炒めといったところしか思い浮かばない。日本でも炒め物は家庭料理の王道のはずだが、なぜこれほど違うのだろうか。

 ここで少し「炒める」という調理法について定義しておきたい。

「炒める」といえば、先の野菜炒めのように強火で短時間で行うやり方もあれば、玉ねぎやルウを色づくまで炒めるように弱火でじっくり火を通す方法もある。また、多めの油であまり材料を撹拌せずにある程度時間をかけて加熱する炒め焼きもある。

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