換言すれば、もはや起こりそうもないクーデターを問題視するよりも、特定の利益集団の1つである軍の部分最適を目指そうとする行動が、全体最適を破壊する事態こそが現代の課題だと指摘しているのです。これこそが、現在の政軍関係の主要なテーマの1つなのです

文民統制の運用法を積極的に議論している米国

 そして、このことから、日本の一部の過激な保守派の「文民統制が騒がれるのは日本だけ」という主張が極めて珍妙なものであると分かります。上記は現状の研究の一部ですが、米国では既存の文民統制をどのように維持し運用するかを積極的に議論しているわけです。

 そもそも、クリントン政権時に米軍が同性愛を許容しないことが市民社会との断絶とされ、ひいては「政軍関係の危機」説が唱えられてしまう米国で、文民統制が騒がれていないなどと指摘するのは非常に不思議かつ間違った思い込みとでも言うべきものでしょう。

 同時に、かつて「素人だからこそ文民統制ができる」と発言した防衛大臣がいましたが、これも間違いだと言えるでしょう。通り一辺倒の文民統制の形式主義的な維持ならば、当該問題について無知で無教養な素人でもできるかもしれません。自衛隊をひたすら警戒し、監視し、遠ざければよいのですから。

 しかし、現代的な文民統制は、実務的な問題であり、その効果的な運用が主要なテーマです。必然的に専門知識と広範な教養をもつ人間でなければ難しいでしょう。無論、単なる専門家であればよいというものでもないのは、農業や医療と同様ですが。

(つづく)

(参考文献)
・菊地茂雄「「軍事的オプション」をめぐる政軍関係 ―軍事力行使に係る意志決定における米国の文民指導者と軍人―」『防衛研究所紀要』第17巻第2号、2015年2月。
・三浦瑠麗『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』岩波書店、2012年。
・Peter D. Feaver, Armed Servants: Agency, Oversight, and Civil-Military Relations, Harvard University Press, 2003.
・Peter D. Feaver "The Right to Be Right: Civil-Military Relations and the Iraq Surge Decision" International Security, volume 35, issue 4.
・Risa A. Brooks, Shaping Strategy: The Civil-Military Relations of Strategic Assessment, Princeton University Press, 2008.
・Jon A. Kimminau, Civil-Military Relations and Strategy: Theory and Evidence," , unpublished PhD thesis, Ohio State University, 2001.
・Eliot A. Cohen, Supreme Command: Soldiers, Statesmen, and Leadership in Wartime, New York, The Free Press, 2002.