私は、「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」という大学院レベルのグローバルリーダー養成事業のコーディネータを務めている。あらゆる学問分野の垣根をとっぱらい、人類社会が直面するさまざまな難問に正面から挑み、その解決をリードする人材を育てようという事業(博士課程教育リーディングプログラム・オールラウンド型)に、真剣に取り組んでいる。
このとんでもない「無茶ぶり」を考えたのは、文部科学省だ。文部科学省はこの事業に巨額の予算を積み、日本学術振興会を通じて採択数を絞り込んだ公募をした(オールラウンド型の採択数はわずか7大学)。有力大学はこの「狭き門」に対して、大学の面目をかけて提案を競うことになった。
私は図らずもこの競争に巻き込まれ、総長の命を受けて提案を準備する立場に立たされた。そこで考えついたのが「決断科学」というコンセプトだ。
「決断科学」が直面する3つの壁とは
一見キャッチ―な言葉だが、この言葉の背景には、科学者としての真面目な考えがある。
環境・災害・健康などの社会的課題に対して、これまでの科学者は、真理を究明すること(具体的には実験や調査をして意見の違いに決着をつけること)で貢献してきた。しかし、それだけでは社会的課題は解決しないのだ。100年後には大気の温度が約4度上昇するという予測ができても、ではどういう対策をとるべきか、という疑問には答えられない。
対策について「決断」するのは、政治家や行政官だ。そしてその「決断」を左右するのは、市民社会全体の意思だ。このような「決断」や意思決定をより良いものにしていくことが、社会的課題の解決にはとても大事だ。