その内容は、フィリピン国内基地の共同使用など米軍の事実上の駐留を認め、合同軍事演習を強化することが柱となっている。1992年に全面撤退した米軍が再び拠点を構築することで、軍事力を背景に南シナ海への海洋進出を強める中国を牽制する狙いがあることは明白だ。ただフィリピン憲法は外国軍の駐留を禁止しているため、米軍はローテーション形式で駐留し、協定にも「常駐」ではないことが明記されている。
中国の南シナ海や東シナ海での国際法を無視した膨張主義に対しては、やはり国際法にのっとった解決と言うだけではなく、抑止力が必要ということだ。
「抑止力」とは何か
ところで抑止力とは何か。かつて、と言ってもほんの数年前、抑止力についてよく知らなかったという首相がいた。米軍普天間基地を「国外に、最低でも県外に」と公約した鳩山由紀夫当時首相だ。
その後、辺野古への移転に賛成するが、その際、「日米同盟や近隣諸国との関係を考え、抑止力の観点から海外は難しいという思いになった」「米海兵隊の存在は、必ずしも抑止力として沖縄に存在する理由にならないと思っていた。学べば学ぶほど抑止力(が必要と)の思いに至った。(認識が)甘かったと言われれば、その通りかもしれない」と語った。
鳩山氏がどこで、何を、どう学んだのかは知らないが、「抑止力」という言葉は実は必ずしも一般的ではない。旧知の松竹伸幸氏の『幻想の抑止力』(かもがわ出版)によると、『広辞苑』にも「抑止」という言葉あるが、「抑止力」というのはないそうだ。調べてみると確かにそうで、同辞典では、「抑止」について「おさえとどめること」というそのままの説明だけである。用途として「核―力」とあるだけだ。
松竹氏は、同書の中で「核抑止力自体、核兵器が誕生した後に使われ出したものだから、抑止力はそれよりも新しい時代に生まれたものである。この言葉が何を意味するのかについて、学問の世界は別にして、誰もが理解できるような定義はいまだ存在しておらず、だからこそ広辞苑でも取り上げられていないのだ」と指摘している。