トモダチ作戦は「人道支援災害救援活動」(HA/DR)であり、戦闘部隊としてのアメリカ海兵隊の本来任務ではない。しかし、現代の軍事組織にとって、HA/DRは、現実的には“准主要”任務とも言う位置づけになっている。筆者も筆者周辺の海兵隊関係者たちも、トモダチ作戦でのアメリカ海兵隊部隊の活動を目の当たりにした日本政府や政治家たちが、アメリカ海兵隊的能力あるいは少なくとも水陸両用能力を保持する部隊の構築に直ちに踏み切るものと確信していた(本コラム「『日本海兵隊』はこうつくる」参照)。

当時は民主党政権であったことも影響してか、そのような軍事能力構築へのステップは極めてスローテンポにとどまっていた。しかし幸か不幸か、安倍政権に移行して以来、覇権主義的な中国海洋進出の動きは「平和ボケ」とも言われる多くの政治家や官僚の目にも“目に見える形”で明らかとなった。その結果、いよいよ日本政府も自衛隊に水陸両用能力を付加する方針へと舵を切ったのである。
水陸両用能力は「陸海空部隊が高度に統合された軍事能力」
過去半世紀以上にわたって島嶼国日本の防衛に不可欠な「水陸両用能力」を自衛隊自身は保持せず(保持させられず)にアメリカ海兵隊と米海軍第7艦隊が肩代わりしてきた(「水陸両用能力」は「水陸両用作戦能力」とも言う。英語では“amphibious capability”、本来の意味としては「水陸空併用作戦能力」が望ましい語である)。
そのため、主要メディアをも含んで日本社会では現代的意味合いにおける水陸両用能力ならびにアメリカ海兵隊的能力に関する本質的理解が欠けている(本コラム「ようやく着手か? 防衛に不可欠な『水陸両用戦能力』の構築」参照)。
現代的意味合いにおける水陸両用能力を要約すると、「海上の前進拠点から、陸上移動部隊が空と海を経由して陸地に到達して各種作戦行動を実施し、陸上での作戦実施中には陸上移動部隊に対して上空や沖合海上からの支援攻撃や補給活動を実施する、陸海空部隊が高度に統合された軍事能力」ということになる。
このため、アメリカ海兵隊は海軍の水陸両用作戦部門と常に密接な連携を保っているだけでなく、海兵隊独自の強力な航空戦力(戦闘攻撃機、攻撃ヘリコプター、各種輸送ヘリコプター、オスプレイ、大型輸送機、空中給油機、電子戦機など)を保持している。つまり、水陸両用作戦を実施するためにいちいち海軍・陸軍・空軍が集まって統合部隊を編成するのではなく、海兵隊自身が本来的に海と空と陸にまたがる統合作戦能力を持っているのである。