すべてはひとりの司教の夢から始まった。

 司教は夢の中で大天使ミカエルから「あの海に浮かぶ岩山に聖堂を建てなさい」とのお告げを受けたのだ。

モン・サン・ミッシェル夕景(筆者撮影、以下同)

 岩山の浮かぶ周辺の潮流は激しく、潮の満ち引きの差が15メートル以上もあった。そのため、実は引き潮の時には陸とつながっているのだが、満ち潮の時には海に浮かんでいるように見えるのだ。

 とにかくその司教オベールの指揮により708年に聖堂が建立されて始まったモン・サン・ミッシェルは、幾度もの拡張を繰り返し数百年の時を経て完成する。

 歴史の時々で修道院だけでなく、要塞や監獄としても使用されるという数奇な運命を経ながら、19世紀半ばにはふたたび修道院として復元される。1979年にはユネスコの世界遺産にも登録されたモン・サン・ミッシェルには、現在でもその神秘的で驚異的な姿を仰ぎ見ようという世界中からの旅行者が後を絶たないのである。

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 僕も昨年の夏、韓国のポータルサイトNAVERで見つけた日帰りツアーに参加して、モン・サン・ミッシェルに行ってきた。

 ルーブル美術館横の待ち合わせ場所に行ってみると、どうやら今回のツアー参加者は4人。僕以外はそれぞれ一人旅をしている女の子たちだった。

 このツアーのガイドはドンジュン氏。彼は韓国の大学で写真を専攻していたのだが、フランスに造詣の深かった恩師に影響を受けて卒業後にパリへやって来た。写真学校で学ぶかたわらこのツアーガイド兼運転手のアルバイトをして生計を立てている。

 ドンジュン氏の愛機はNikonのD700。僕のRICOHもそうだけれど日本製のカメラは世界中どこに行ってもたくさんの愛を受けている。スマートフォンや液晶テレビでは韓国がリードしている感もあるが、カメラはまだまだ日本。

 普段は意識することはないけれど、世界に出ていくようになって強く思う。互いに切磋琢磨しながら世界を席巻している東洋の2つの国の文化の中で生まれ育った誇りを持って、堂々と世界を相手にしていくのだと。