時間だ。大ジョッキに残ったビールを急いで飲み干すと、代金とチップをテーブルに置くが早いか、僕とドゥルリはパリの夜にこだまする轟音と光の方角に駆け出した。

 7月14日はフランスでは国民の祝日。バスティーユデイだ。夜には、アメリカのインディペンデンスデイの祭典同様、盛大な花火を打ち上げて祝うのである。

 大ジョッキ直後の全力疾走はやはり効く。颯爽と駆け抜ける自分のイメージに脚の運動がついていかない。

 一方のドゥルリは、僕より2杯分多く飲んでいるにもかかわらずそれはもう無邪気な子どものようにガンガン走っていく。さすがに軍隊を除隊してきたばかりの体力。兵役2年半のトレーニングの成果は半端ない。

釜山からフランス留学を控えてやって来たドゥルリとその従姉のヒウォン(筆者撮影、以下同)

 ドゥルリは、前回の「パリの超オススメ韓食レストラン」でガイドをしてくれたヒウォンの従弟だ。釜山の慶星大学で演劇を専攻した後、兵役のため入隊。所定の期間をきっちり終えて除隊すると、ご両親から海外留学の権利をプレゼントされた。

 以前から「フランス」というイメージに憧れていた彼は、専攻を決める前に留学先を「フランス」とまず設定した。それから滞在都市を従姉家族の住むパリ、専攻はインテリアデザインと逆の順番で決定した。専攻よりもなによりも、彼にとっては憧れの「フランス」留学なのだ。今回はその留学の下見でパリにやって来ていた。

 憧れのパリの空気を肺にいっぱい吸い込みながら若き血潮をたぎらせ駆けるドゥルリの背中を追って、僕も「パルドン! パルドン!」と叫びながら人波を縫って走っていた。

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 今回はパリで出会った若き韓人たちのことを書こうと思う。

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世界的ソプラノ、スミ・ジョーのアンダースタディ(代役)に抜擢
ユン・アルナさん

 いつも漠然と「フランスがいいな」と思っていたアルナさんがパリに渡ってきてから6年半。彼女は韓国・ソウル大学の声楽科を卒業した才媛だ。

 2009年には見事にパリのコンセルヴァトワールに入学。コンセルヴァトワールというのは、フランス政府が管轄する音楽の高等教育機関だ。学費はなんと年間わずか4万円ほど。フランスでは国家が芸術家を育成するシステムがきっちりと整っている。

 現在そのコンセルヴァトワールの最終学年に在籍中のアルナさん。まだエージェントと契約はしていないが、チャンスが到来すれば様々なコネクションを駆使してオーディションをゲットする。「フランスではアジア人の登場する作品がほとんどないので、チャンスに対しては常にアンテナを立てるようにしています」