厚生労働省は2月22日 ヘリコバクターピロリ感染胃炎に対するピロリ菌除菌療法を健康保険診療で行うことを認可しました。

 ピロリ菌は1994年に、世界保健機関(WHO)によって胃がんの確実発がん因子として認定されました。強力な発がん性で知られるアスベストと同じ最高の危険性を示す「グループ1」として認定されています。

 胃の中に住みつくこの細菌は、胃がんだけでなく、その前段階として慢性胃炎および胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こします。2000年から日本においても、「胃潰瘍、十二指腸潰瘍を発症した人に限り」健康保険でのピロリ菌の感染診断および治療が認可されていました。

 今回は胃潰瘍、十二指腸潰瘍のみならず、慢性胃炎にまでピロリ菌治療の保険適用が拡大されました。

 これにより、アメリカと比べて発症率が10倍も多く、年間10万人以上が発症する、日本のがんの罹患率第1位である胃がんの大幅な減少が見込まれます。ピロリ菌は胃がんの原因の9割を占めるとされています。ピロリ菌治療適応の大幅拡大により、胃がんの発症数が4分の1程度にまで減少するという試算もあるくらいです。

 これを受けてメディアは、「胃がん予防が進む」「胃がん予防元年」といった趣旨の報道をしています。

 もちろん、この決定に至るまでに各分野の方々の並々ならぬ努力があったことは、痛いくらい分かります。しかし、臨床現場で胃がんの方々を診療する私としては、この決定はあまりにも遅かったと感じざるを得ません。日本には「胃がん予防の失われた10年」があったのです。

胃炎の段階でのピロリ菌除菌治療はほぼ不可能だった

 日本ではこれまでの10年あまり、胃潰瘍および十二指腸潰瘍にしかピロリ菌の除菌治療が認められていなかったと述べました。

 これは現場の医師にとっては、出血や粘液の付着を伴うような強い胃炎でピロリ菌が強く疑われる場合でも、潰瘍や胃がんに進行するまで治療ができなかった、ということを意味します。

 もちろん、保険適用外ということで全額自費で、胃炎の段階でピロリ菌治療を行うことことは可能でした。