ノーベル賞を取るにはノーベル賞級の業績、つまりノーベル賞を受けても不思議でない難問に取り組んで、それを解決すればよい、という、自明なようで実は多くの人がピンとこない話題を考えています。

 「ノーベル物理学賞を2回取った男」ジョン・バーディーンは、「研究戦略」に非常に卓越していたわけですが、そのポイントは「見立て」と「腑分け」にあると私は思うのです。

ターゲットの見立てが第一

ジョン・バーディーン(ウィキペディアより)

 前回の連載を見た方から「副作用ゼロ、再発ゼロのガンの特効薬ができればノーベル賞モノ」というリアクションをいただいたのですが、実はこれではノーベル賞には近づかないと思うのです。

 なぜか?

 それは、問題が問題としてきちんと提示されていないからです。

 なるほど、副作用ゼロのガン特効薬ができれば素晴らしいけれど、それはどういう薬理の原理で、どのようにガン細胞にアタックし、またどのようにして副作用はゼロにとどめるのか、というメカニズム、つまり方法が明確でありません。

 方法的でないものは、現実的ではないのです。これでは、解くべき問題として適切なターゲットを見立てたことにはなりません。

 ノーベル賞級の問題攻略には「解決可能性」カタカナで書けば「フィージビリティ」有る問題設定とその解決の「見立て」が必須不可欠なのです。

 「ガンが治る」は、夢、あるいは夢幻(ゆめまぼろし)としては美しい目標ですが、まるでおとぎの城と同様で、そこに至る道筋が見えません。問題をきちんと特定できているとは言いがたいのです。

 バーディーンなど、ピントの絞れた仕事をする科学者は、こういう夢想の仕方はしないんですね。そうではなく、きちんと問題として成立し、解決に方法の目安が立ち得るターゲットを見つけるのです。

 「超伝導」は、条件さえ整えば、いくつもの金属で必ず現れる普遍的な物理現象です。完璧な再現性もある。それに対してガンは千差万別で発生部位も病状の深刻さもまちまち、ユニバーサルな治癒を一挙に、なんてことは、まずもって考えにくい。

 そういう「ガンの特効薬」みたいな問題設定の仕方を、言ってみれば「病んだ設定問題」イル・ポーズド・プロブレムと呼びます。

 これに対して適切に設定された問題は「よく設定された問題」ウエル・ポーズド・プロブレムと言います。

 イル・ポーズドの問題、つまりキッカリ解くことができない、下手な設定の問題・・・もう少し露骨に書けば「二流、三流以下の見立て」・・・では、いくら時間を使っても、ロクな成果は出てきません。