「財閥によるパン(ベーカリー)事業」は、韓国ではここ数年、「中小・零細企業を圧迫しながら膨張する財閥」を象徴する事業だとして強い社会的批判を浴びてきた(「『パン屋から手を引け』で始まった財閥叩き競争」を参照)。
財閥によるベーカリー事業と町のパン屋の間で本当に「ゼロサムゲーム」が起きていたのか、はっきりとした因果関係はない。
ただ、財閥オーナーの2世、3世の娘や孫娘が、相次いで欧州のベーカリーなどと提携して韓国内で事業を始めていた。大手ベーカリーのフランチャイズ加盟店も急速に増えていた。一方で、町のパン屋さんは過去10年間で急減していたことは確かだ。
2012年1月には李明博(イ・ミョンバク)大統領まで乗り出して、「パン屋論争」は「大企業や財閥のベーカリー事業が悪者」ということで決着した。
パン屋論争の「李明博裁定」に抵抗してきた新世界グループ
李明博大統領は、相次ぐ財閥のベーカリー事業進出について青瓦台(大統領府)の首席秘書官会議で「2世、3世は趣味でやっているのかもしれないが、パン屋を営んでいる小規模商人にとっては生存権の問題だ。財閥が数兆ウォンの利益を出したからといって、小規模商人の領域にまで進出していいのか(中略)。これは企業倫理の問題だ」と言い切った。
そのうえで「財閥のこうした活動について、一度調査してみるように」とまで駄目押しをしたのだ。
ロッテ、現代自動車、サムスン・・・。オーナーの娘や孫娘がベーカリー事業を手がけていた財閥は大統領発言に青ざめた。すぐに「ベーカリー事業撤退」を宣言した。ところが、最後まで「撤退」に難色を示していたのが新世界だったのだ。
大手流通グループはここ1~2年の間、「経済両極化の主犯」として標的になっていた。「パン屋問題」以外にも、大手スーパーの出店攻勢で、既存の中小・零細商店がどんどん閉店に追い込まれていることもあり、「大企業・財閥の横暴」という批判を浴びていた。大手スーパーについては、強制的に休業日を設ける規制までできた。
