2012年の韓国は、「政治決戦」の1年になる。4月には総選挙、12月には大統領選挙があるからだ。2つの選挙を同じ年に実施するのは20年に1度のことだ。

 最大の争点に浮上しているのが「財閥」だ。これまで「親財閥・大企業」政策を掲げてきた李明博(イ・ミョンバク)大統領が財閥による中小企業圧迫を批判する異例の「パン屋発言」をしており、これが与野党入り乱れての「財閥叩き」の号砲になりそうだ。

 2012年1月25日午前。青瓦台(大統領府)で開かれた首席秘書官会議。李明博大統領は急に、韓国の地方で長年地域住民から尊敬を集める富豪の話を始めた。

 「地方では凶作になると富農が貧しい農民から農地を買収してどんどん資産を増やした。だが、この一族には『凶作になっても土地を買うな』という家訓があり、長年これを守って地域で尊敬を集めている」

経済界を駆け巡った李明博大統領の「パン屋発言」

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「親財閥・大企業」政策を掲げてきた李明博大統領が急に財閥批判に出た〔AFPBB News

 話の行方をいぶかる首席秘書官たちを前に、李明博大統領は、最近の財閥の貪欲な拡張ぶりに矛先を向けた。

 特に、強い口調で批判したのは、財閥オーナーの2世、3世たちが相次いで進出したパン屋(ベーカリー)事業についてだ。

 「2世、3世は趣味でやっているのかもしれないが、パン屋を営んでいる小規模商人にとっては生存権の問題だ。財閥が数兆ウォンの利益を出したからといって、小規模商人の領域まで進出していいのか」

 「景気が悪化しているときこそ、小規模商人の領域に乗り出すことを自制しなければならないのではないか」

 さらに李明博大統領は「公職者には公職倫理があり、労働者には労働倫理がある。これは企業倫理の問題だ」と述べたうえ、経済首席秘書官に「財閥のこうした活動について、一度調査してみるよう」指示した。

 「大統領のパン屋発言」は、あっという間に経済界を駆け巡った。