1 はじめに

 10人の日本人と多数の外国人が命を落とした痛ましいアルジェリアの人質事件で、政府の安倍晋三総理を本部長とする対策本部は、事件の経緯に関する検証委員会の設置を行い、海外における邦人や海外進出企業の安全確保策をまとめることを決定した。

日本人含む41人を人質に、アルジェリア拘束事件で武装勢力が主張

人質事件が発生したアルジェリア南部イナメナスの天然ガス関連施設〔AFPBB News

 これにより事件発生から終結までの過程において政府の活動で何が欠けていたか、今後早急に改めるべき事項を含めて検証するという。この検討事項の中には防衛駐在官の配置についてもその増員を含めて検討される旨の報道が散見される。

 私はアフリカにおける唯一の防衛駐在官として1992~95年の3年間を在エジプト日本国大使館で勤務した経験を元に意見を述べたい。

 多国籍軍の大勝利に終わった湾岸戦争終了後の1992年、家族を帯同しカイロへ赴任した。エジプト国内におけるイスラム原理主義者過激派による観光客襲撃事件やソマリア紛争勃発、ルワンダ内戦、スーダン問題など目まぐるしく千変万化する国際情勢に否応なく対応を強いられたことを想起する。

 今回のアルジェリアテロ事件からアフリカ配置の防衛駐在官数について揶揄する論議があるが、もしもアルジェリアといういわゆる情報統制国家へ防衛駐在官を派遣していれば事件発生の端緒を掴めたかどうかは正直なところ何とも言い難い。

 しかし、少なくともアルジェリア軍の編制、装備、訓練練度、戦術教義・戦法等に関しては一からの収集ではなく、平素の軍関係情報の収集により見積もり分析を行い基礎資料の蓄積によりアルジェリア軍の動向は予測可能であったろう。また、緊急時必要となる軍とのコンタクトポイントを初めから得られたものと思う。

 今回の事件対応に見られるような欧州及び米国からの情報のみに頼ることなく日本としての状況判断が可能であったものと確信する。

 この種危機管理では想定外とする見解は通用しない。あらゆる可能性を詰めておきそれに対応できるよう計画、対応行動を定めておくことが真の危機管理と言えよう。

 まずは防衛駐在官とは、在外公館に駐在し、軍事に関する情報収集を担当する自衛官を指す。通常は軍人としての身分(軍服着用、帯剣、階級呼称)と外交官としての身分(外交官特権保有)の両方を持つ。

 日本では敗戦により駐在武官制度は廃止されたものの、自衛隊発足(昭和29年)に伴い、旧帝国陸海軍の駐在武官制度と同じ趣旨で防衛駐在官制度が開始された。

 大使と同様に事前の受け入れ国承認(アグレマン)を得なければならないことからも国際的には一般の外交官より重い地位として認められている。階級は将補(在米国大使館のディフェンスアタッシェのみ)、通常1佐(ただし、在スーダンおよび在アフガニスタン大使館などは2佐)である。