しかもそのリーダーは、東C自治会の委員長で全学連中央執行委員を務め、近い将来全学連委員長にと期待されていた人物だった。

 筆者は、全学連脱退運動の仕掛け人となった何ろく(か・ろく)氏(東京大学教養学部3年、前自治会委員長)にインタビューを行った。叛旗を翻した何ろく氏は一体何を目指しているのか。

 「何ろく」は本名で、山口県出身だが、国籍は中国である。規約上日本共産党や民青同盟に入るには日本国籍が必要であるため、彼は党員にも民青にもなれない。しかし高校在学中に共産党支持者となり、大学に入ってからは「党の会議に出ない」以外は、共産党と共に活動していた筋金入りだ。

 東大入試日に民青と関わり、合格して東京に出てきた直後から新歓のビラをまいていた御仁である。東C自治会の活動にも熱心に取り組み、先に挙げた学生から出された東C自治会解散提案も、必死になって抑え込もうとした。日本共産党が学生の意向に反した、党の論理で介入を行うことにも、まったく疑問を持たなかった。

 そんな何氏を「反民青」「反共産党」にさせたものは、2011年7月に行われた日本共産党の3中総決定(第3回中央委員会総会決定)という文書である。新聞が売れない時代に赤字脱却を目指して機関紙「しんぶん赤旗」を値上げするなどの「現実離れした空想的な内容」に衝撃を受けて、「党中央委員会は正気なのか」と疑うきっかけになった。

 そして9月には日本共産党・民青に対する強烈な違和感を感じ始める。東C自治会は、第一に東大教養部学生の代表であり、優先されるのは党ではなく学生である。にもかかわらず、それまで受け入れてきた全学連の指導という名の自治会への介入が、あまりに学生の意向を無視している。そして何氏は確信した。「これはカルトだ」と。

党から出られない恐怖感を克服

 質問してみる。「大学入学時に、すでに民青のビラを配っていたわけですよね? それから1年半、民青・共産党の活動にどっぷり浸かっておられたわけですが、どうしてそれまでカルトだと気がつかなかったんですか?」

 何氏は一瞬返答に窮したが、すぐ立ち直って概略以下のように答えてくれた。

 共産党の主張は形式的には正しい。そして党員は批判されることに対する「運命論的拒否」を持っている。運命論的拒否とは、共産党は迫害される運命にあるとして、批判を忌避する姿勢を言う。