川嶋 日本ではいま消費税増税が最大の政策になっています。小泉政権を支えた竹中平蔵・慶応義塾大学教授は「改革を棚上げして増税に走るのは砂場に水をまくようなものだ」と批判していますが、マハティールさんは日本の消費税問題をどのように見ていますか。

いまの日本に消費増税は逆効果

マハティール 税金の問題については、とても慎重に検討する必要があります。一面だけ見て判断してはいけません。経済のあらゆるセクターに対してどのような影響を与えるのかを見極めなければなりません。

 消費税を上げれば安定した税収が得られる半面、国民の消費は確実に落ちてしまいます。消費増税は国内総生産(GDP)にとって間違いなく悪影響を及ぼします。一時は確実に税金を集められても、経済を冷やしてしまっては国家の将来にとっては有益とは言えません。

 別の道は、消費税を下げるか、あるいは増税はしないという考え方です。消費税という名目で集められる税収は小さいかもしれません。しかし、国民が消費を増やすことで国家にとっては増税よりも税収を上げられるのです。

 マレーシアの場合には、隣にシンガポールという国があって、国民の多くが税金の安いシンガポールに買い物に出かけていました。その結果、マレーシアは本来得られるべき税収を失っていました。

 そこで私たちは、電気製品や時計、万年筆や宝石などについての消費税を廃止しました。完全になくしてしまったのです。そうしたら、マレーシア人がシンガポールに買いに行くどころか外国人がマレーシアに買いに来るようになりました。

 そして、国内で消費が活発になることで企業が潤い、法人税という形でマレーシアの税収増に貢献したのです。マレーシア人がシンガポールに行って買い物をし、マレーシア国内に持ち込む際に払う関税よりもずっと大きな税収を手にすることができました。

 もしマレーシアにシンガポールというライバルがいなかったとしても減税は必要でした。減税は企業活動のスピードアップを促し、企業活動を拡大させたからです。そして国を富まし、国に活力をもたらしました。

川嶋 国を豊かにするビジョンが大切ということですね。いまの日本に欠けているのはまさにその点だと思っています。