川嶋 プラザ合意のことは日本以上に中国や韓国が研究しています。中国は米国の強い圧力にも決して屈しない。それに比べて日本が甘いのは事実です。現在の円高だって、これ以上日本の企業を痛めつけてどうするんだ、と言いたい。

円高は日本だけでなく発展途上国にも悪い影響を及ぼす

自著『A DOCTOR IN THE HOUSE』にサインするマハティール元首相

マハティール 円高は明らかに悪です。品質の高い日本製品を安く供給してくれれば、貧乏な国の国民でも買うことができる。しかし、円が高くなれば価格も高くなって買うことができなくなります。

 円高は日本にとっても良くないが、日本製品を買いたい発展途上国にとっても悪いことなのです。

 さらにもう1つ。現在、日本は中国とも競争をしなければならなくなっています。その中国は元を安く抑えている。問題は対米国だけではなくなっているのです。

 中国と競争するということはつまり、中国の低コストと戦うということです。日本企業はコストを下げる努力を惜しみませんが、通貨が必要以上に高いとコスト削減は極めて難しくなります。

 いまの日本は真剣に円高是正を考えるべきでしょう。そのうえで、国も企業も生産性の向上に取り組む。そうすれば、日本の競争力は上がって国が豊かになるはずです。

川嶋 マハティールさんからご覧になって、日本の円は現在、ドルに対していくらぐらいが適当でしょうか。

マハティール それは難しい(笑)。ともかく、円をゆっくりと下げていくような方針、政策が必要でしょうね。

 私が1961年に日本を訪問したとき、日本の円はマレーシアの通貨リンギット(マレーシアドル)に対し、1円が1セントでした。それがいまや1円が4セントです。実に4倍になっているのです。これでは、マレーシア国民は日本製品は買えません。みな中国製品を買いますよ。

 でも、マレーシアのリンギットが下がったのではありませんよ。日本の円が一方的に上がったのです。リンギットに関しては、かつてより高くなっているのですから。