国際慣習上、領空の範囲もほぼ同程度の高さと考えられている。したがって、それ以上の高高度で、自国に落下しない他国の飛行体を破壊するのは、国際法上も問題になる。そんなことが許されれば、世界中の衛星が攻撃目標になってしまう。
北朝鮮は国連安保理決議で、弾道ミサイルの技術を使ったロケットの発射を禁じられているが、だからといってそうしたロケットの破壊が他国に認められているわけではない。日本が手を出していいのは、あくまで自衛権が発動できる日本の領土・領海内に着弾する飛翔経路のロケットである。仮に集団的自衛権を行使するなら、同盟国を狙って発射されたミサイルの迎撃も可能になるが、それは今回の話とは関係ない。
いずれにせよ、イージス艦のレーダーなどによる航跡の解析によって、日本の領土・領海に落下すると判断された場合のみ、MDは実行される。
その場合、まずは射程の長いイージス艦の対空ミサイル「SM-3」による迎撃が行われる。現在、海上自衛隊のイージス艦が装備しているのは、ブロック1Aというタイプである。射程は約400キロメートルと広く、1隻でも沖縄海域を守るには十分だが、今回、自衛隊は前述したように3隻を展開する。おそらく1隻はフィリピン方面まで南下させるだろうが、これはレーダーによって航跡を詳細に追跡し、特に第2段ロケットの落下地点を把握するためだ。
SM-3の上昇限度は推定で約250キロメートル程度。今回の北朝鮮のロケットが計画通りに飛翔するなら、沖縄付近では少なくとも400キロメートル以上の高高度を通過していくので、どのみちSM-3では届かない。
なんらかのトラブルで日本に落下してきたときに出番となるが、SM-3の迎撃有効高度は約90~250キロメートル。その間で迎撃すれば、前述したように大きな塊が小さく分解される。破片は海上の広範囲に拡散されるうえ、落下速度によっては大気圏再突入時の摩擦熱で多少は磨耗するだろう。確かに地上が受けるダメージはそれなりに軽減される。
そもそも北朝鮮のロケットや部品が沖縄のどこかの島に落下する確率は極めて低く、もしそうなった場合でも、人や建物に直撃して被害をもたらす確率は限りなくゼロに近いが、それでも上記のように、イージス艦による迎撃はまだ意味がないわけではない。
しかし、PAC-3にはそんな効果もない。PAC-3は、イージス艦が撃ち漏らしたものを、着弾の最終段階で迎撃する対空ミサイルだが、その有効高度は約15キロメートルしかない。それ以下の高さで迎撃しても、単に大きな金属の塊がいくつかの破片に分解し、少々拡散して降ってくるだけのことだ。
それによって住民への危険度が軽減されるとの理屈のようだが、破片といってもそこそこ重量はあるのだから、必ずしも危険度が下がるわけではない。散弾のようなもので、人や建物に当たる確率は、逆に上がることになる。もちろん仮にビルに直撃したような場合を想定すれば、被害は確かに低減されるから、「逆に危険だ」とまでは言えないが、いずれにせよ総合的に見てメリットがあるとは言えない。
前述したように、仮に多少の燃料が残留したまま落下すれば、破壊によって燃料を拡散させる効果を多少は期待できるが、沖縄まで到達するということは、少なくとも相当量の燃料は使い切っているはずで、せいぜい小規模の火災を起こす程度のものでしかない。