今回の北朝鮮のロケット発射で、日本に危険が及ぶことはほとんど考えられない。
まず、「北朝鮮のミサイル技術は未熟だから、どこに飛ぶか分からない」という思い込みがあるようだが、北朝鮮はすでに2009年に予告通りの飛翔コースで日本列島東北部を横断する「テポドン2改」の発射をほぼ成功させている(日本を飛び越えた後の最終段階で失敗したようだが)。
また、すでに3度の衛星打ち上げを成功させたイランと極めて緊密な技術協力関係にあり、そこからもそれなりに高い誘導技術を獲得している。見当違いの方角に打ち上げるほどの初歩的ミスを犯すとは考えられない。
ロケットの不具合により、途中で失速するなどして、計画された地点とは違う海域に落下することはあり得るが、その場合でも、落下の可能性のある飛翔予定ルート上の広大な海域の中で、日本の領土・領海の占める割合は微々たるものに過ぎない。そこにたまたま落ちるなどということは、実際にあれば“奇跡的”と言っていいほどの確率になる。
それでも理論上は完全にゼロ%ということではないから、沖縄方面の住民の方々が不安になる気持ちは理解できる。なので、政治的判断でMDを準備するのもよしとしよう。
しかし、イージス艦はまだしも、PAC-3を配置するのは意味がない。いったい何をしたいのか、まったく理解できない。
ひとつ前提として知っておくべきことは、MDは本来、兵器であるミサイルを迎撃するための兵器だということだ。つまり、着弾地で爆発したら大きな被害が出るから、それを着弾前に破壊し、弾頭を無力化しようというのが、MDである。
今回、北朝鮮は国際社会の注目の中、人工衛星の打ち上げだと公言している。打ち上げに際し、外国の専門家やメディアを招待するとも言っている。そんな中で弾頭に爆弾を搭載するなど考えられない。衛星かどうかはともかく、爆弾でない何らかの物体を積んで飛ばすだけだ。
となれば、仮に日本の国土に飛んできた場合でも、落下するのは金属の塊に過ぎない。ブースター燃焼が不十分のまま落下となれば、多少は燃料が残されたまま落ちてくる可能性もあるが、仮に引火しても爆弾の破壊力とは比べるべくもない。それを迎撃するというのは、平たく言えば、単に大きな塊を多数の塊に分解するだけのことだ。
「実戦的な訓練」としての意味はある
ここで、破壊措置の内容を具体的に見てみよう。
まず日本政府は、仮に日本の領土・領海の頭上でも、大気圏外の高高度を通過するだけのロケット(ミサイル)は迎撃しないとしている。大気圏の高度についてはいくつかの定義があるが、大雑把に言えばだいたい高度100キロメートル程度だ。日本上空でそんな高高度を飛翔する物体は、いずれにせよ慣性飛行ではるか遠くまで飛んでいくから、日本に落下することはあり得ない。