平木 やはり、選手の体格、体力はもちろん、長所、短所を見極めて、その人に合ったアドバイスを送れるのがいいコーチだと思います。一律的な教え方ではなく。あとは、直接的ではなくてもメンタルなところに響く一言というのがありますよね。ささいな言葉かもしれないけど、その一言でぐっと成長していくような。そういうのは大事だなと思いますね。

 坂井さんは慶應のテニス部で監督をされていますが、学生にはどんなふうに接しているんですか。教え方は厳しいんですか。

坂井 以前は厳しかったんですけど、最近は優しくなってきました。本当は平木さんのお父さんみたいに、「こういうもんだ」とびしっと教え込むのがベストだと思うんですが、私が教えているのは大学生なんで、その年になってから「こうだ」と厳しく教えるのは、やはり難しい部分があります。だから今、小さい時から教えていくことに、すごく興味があります。そういう意味で、ジュニアにとって両親の存在は大きいですよね。

平木 そうですね。テニスを知っているか知らないかではないんですよ。子供のことをよく知っている親だからこそ、メンタルな面でサポートできることは大きいと思います。体、性格、年齢に合わせて、いかにきめ細かくサポートできるかがポイントですね。それは親に限らず、すべてのコーチに言えることだと思います。

平木さんとの対談を終えて

 小学生の時を振り返ると、平木さんが勉強面でも本当に優秀な子供だったことを思い出します。例えば、平木さんは時間をとても有効に使っていました。千葉から2時間ぐらいかけて久我山までやって来ていたのですが、電車の中で勉強をしたり、時間を効率的に使って、やれることをすべてやっているという感じでした。

 その後、プロになってからの世界的な活躍は、みなさんご存じの通りです。選手としての実績が素晴らしいのは言うまでもないのですが、特筆すべきなのは、大学に行って就職し、働きながらプロ選手として活躍したことです。しかもグランドスラムのチャンピオンにまでなったのです。

 こうした平木さんの存在は、これからの日本のテニス選手にとって、間違いなく1つのロールモデルになると思います。

 プロを目指しているジュニア選手の親御さんは、子供が将来どうなるのか、プロとしてやっていけるのか、引退後どうなるのかなど、様々な心配があると思います。そういうことをお考えになる親御さんには、もちろんジュニアたちにも、ぜひ平木さんのキャリアを見ていただきたい。

 平木さんは、テニスも勉強も一生懸命やれば両立できるということを証明してくれました。日本のテニス界にとって、平木さんを見習うのは絶対に必要なことだと言っていいのではないでしょうか。