日本人から見るタイのものづくり現場の評価は、極端に分かれる。言い換えると、好き嫌いの差が激しい。現地ワーカーの働きぶりから、タイの現場は優秀であると評価する人もいれば、その一方で怠け者ばかりだと考える人もいる。

 筆者は、タイの現場の魅力は、優秀層と怠け者層が渾然一体となってつくり上げる独特の雰囲気にあるとみている。今回は、タイの現場調査で見聞きし、肌で触れた感覚を中心に話を展開してみたい。

「タイ派」か「中国派」か

 アジアのものづくり現場を回っていて、製造業に携わる日本人をおおむね次のように分類できると思うようになった。それは「中国派」と「タイ派」である。

 統計を取ったわけでもなく、あくまで筆者の主観と推測で申し訳ないが、「どこの現場がオペレーションしやすいですか」、あるいは「どこの現場が好きですか」といった質問に対する回答からの分類だ。

 中国派は、中国の現場には「熱気がある」「従業員が真面目で優秀」といった意見を強く持っているようだ。以前にも書いたが(「アジア工場が『兄貴』になる日」)、中国の熱気に触れると、他地域の現場では物足りなく感じる、といったところだろう。特に、中国華南の東莞あたりの「がむしゃらに走っている」感覚が中国派の方々にとっては心地良いようだ。

 一方、タイ派の方々は、中国や他国と違ったタイの独特の現場の匂いが気に入っているように思える。タイ派の中には「ちょっと中国は苦手だ」と言う人もいる。

 中国派の方々は、タイ派が好むタイ特有の現場の匂いが苦手だし、「心許ない」あるいは「物足りない」と感じているように思う。この中国派が苦手な部分が、タイ派にとっては他に代え難い、重宝したい部分になっている。

中国派から見ると許せないタイの現場

 タイは、東南アジア諸国連合(ASEAN)における日系企業の最大集積地だ。中国を除いたアジア域内の戦略拠点として位置づけられた生産子会社も多い。

 話題になったトヨタ自動車の「IMVプロジェクト」(日本国外の事業所を、車両・部品のグローバルな生産・供給の拠点として活用するプロジェクト)でもタイは重要な位置づけにあるし、家電業界を見れば、タイは対インド輸出の拠点として、その重要度が増してきている。

 筆者は、日系メーカーの方々に、タイの現地オペレーションや戦略的方向性、アジア域内における拠点の位置づけ、市場動向などについて様々な質問をぶつけ、丁寧に回答していただいた。また、工場見学もさせてもらい、自動車から家電まで、幅広い領域におけるタイの製造業について調べてきた。

 その結果、産業ごと企業ごとに事業構想や考え方が異なりながらも、およそ共通して得られた知見が、現地ワーカーの評価に関する二面性の存在だ。つまり、タイ人ワーカーは「のんびり怠け」型である、一方で「まじめ」型である、という両極端の評価が混交しているのだ。

 怠け型であるとする評価の例は、「時間にルーズ」「昼寝して戻ってこない」「1カ月働いて給料を手にすると、すぐに辞めて遊びに行く」「目を離すとサボる」といったところだ。日本でもどこでもこうした怠け者はいるもので、決して特殊なタイプではないだろう。しかしそれを「のんびり」ではなく、「怠けている」と見る日本人は少なくない。

 他方で、タイ人ワーカーは「まじめ」であるという評価も根強い。ベトナムもそうだが、ジョブホッピングしないから、勤続年数10年以上の選手が育つ風土がある。これは日系企業にとって好ましいことだ。