インドのバイクには、後部に乗る女性の衣服(サリー)がタイヤに巻き込まれないよう、「サリーよけ」というパーツが取り付けられる。
中東では、日本で好まれる静かなエアコンは売れず、轟音をたてて強い風を起こすエアコンが売れるので、あるメーカーはエアコンにスピーカーを付けている。
そしてインドネシアでは、カートリッジの交換なしにたくさんプリントできるように、通常のインクジェットプリンターの横に、巨大なインクのタンクが取り付けられている。
これらの例を笑い話だと思ったのなら、あなたはアジアでのマーケティングの現実を分かっていない。アジア市場の最前線で戦っているビジネスパーソンならば、これらの話を聞いて、やはりアジアの戦略は難しい、いかに攻めるべきか・・・と、アジア市場競争の困難さを改めて強く認識したのではなかろうか。
今やアジアは、日米欧に並ぶ第4の市場である。世界のGDPのうち、約17%が東アジア諸国によるものである(日本を除く、国際連合の「2007年 国民経済計算データベース」より)。しかも、その市場は日米欧とは比べ物にならないペースで成長している。
そんなアジアをいまだに小さな周辺市場の1つと見ているとすれば、それは最も可能性のある市場をみすみす逃していることになる。
アジア市場でのマーケティングの4Pを再認識せよ
だが、このアジア市場、一筋縄で攻略できる市場ではない。アジア市場の特徴は、「多様性」と「成長」である。各国ごとに全く異なった文化が存在しており、しかも各国の所得水準もまちまちで、そのいずれもが激しく成長している。
アジアを制するには、日米欧市場と同様の戦略を適用するのではなく、各国ニーズへの深い理解に基づいて、製品・価格・流通・販売促進などの面で戦略を立て直さなければならない。
いわゆる、マーケティングの基本4要素である「4P」、つまり、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)を一から検討し、構築していく必要があるのだ。企業は、顧客にとって最善となる製品、価格、流通経路、販売促進活動を行い、これらを調和させなければならない。
成熟した先進国市場では、4Pの抜本的な見直しを要求されることはまずないだろう。先進諸国では、流通網や販売促進ノウハウは確立されている。製品は常に先端を競い、価格は常に安く。これら4Pの全てを一から考え直すということは、よほど大きな失敗をしない限り、ほとんどないはずである。
これに対し、新興国市場では状況は全く異なる。