カネジョウ(静岡県・蒲原新田)の事務所で、望月啓一社長と望月英幸専務に取材をしている最中、たまたま商品に関する問い合わせの電話がかかってきた。
〒421-3211
静岡県静岡市清水区蒲原新田2丁目8-13
電話をしてきたのは、山口県の岩国に住む40代と思われる女性。「贈り物としてカネジョウの削り節をもらったのだが、食べてみて驚いた」という。
その女性いわく、「他のメーカーの削り節は袋を開けた時に油っぽい匂いがするけど、カネジョウのは匂わない。舌ざわりも全然違う。おいしいので自分でも買いたいと思い、近所のスーパーを探し回ったのだが、なかなか見つからない。岩国では売っていないのか。一体、どこで買えるのか」。それに対して、「残念ながら岩国では売っていないので、こちらから直接発送します」というやり取りだった。
「うちの商品は、他のとは本当に味が違いますよ。食べてくれれば分かります」。望月社長が取材中に胸を張って言っていたが、それを裏付けるような出来事だった。
斜陽産業の中でも着実に成長
駿河湾に面し、蒲原漁港や由比漁港などの漁港を擁する蒲原では、昔からカツオやイワシを使った削り節を作ってきた。戦後間もない頃の蒲原には、80軒以上の削り節業者が軒を競っていたという。
しかし今の蒲原にその面影はない。ある業者は、後継者がいないために店をたたみ、また、ある業者は、納入先である大手水産メーカーからの値下げ圧力と、原料の価格高騰の板ばさみに耐え切れなくなって、廃業していった。
こうして削り節業者はどんどん減っていき、現在、蒲原で削り節加工を営む業者は20軒に満たない。蒲原の削り節加工業は、つまるところ斜陽産業なのである。
そうした中で、ただ1軒、気を吐いているのがカネジョウだ。カネジョウは、主に削り節と、駿河湾の名産である桜エビの加工販売を行っている。二十数年前、売上は1億円に満たなかったが、他の業者が廃業するのをよそにじわじわと売り上げを伸ばし、売上高3億円の規模にまで成長した。
人と同じことをやっては生き残っていけない
カネジョウが業界縮小の波に逆らって成長できた最大の要因は、何と言ってもその商品力にある。
同社は、企業理念の1つとして次のような言葉を掲げている。「目隠しして何十種類の同じ食材を試食した際にも、必ず選んでいただけるような本物の味を目指すこと」
「人と同じことをやっていたら、生き残っていけません。世の中には、多少値段が高くても、いいものはいいと認めて買ってくれる人がいる。私たちは、そういう人たちを相手に商売をしています。どっちつかずが一番いけないんですよ」(望月社長)
カネジョウの商品は、一般の量販スーパーではなかなか手に入らない。外国産の小エビなど、広く量販店に卸す食材も扱ってはいるが、イワシ、カツオの削り節や、桜エビ加工品といった国産原料の商品は、工場直営の店舗や同社のネット通販、一部の高級スーパーでしか買うことができない。