フィリピン海に展開している米国のミサイル駆逐艦「デューイ」から発艦準備するヘリコプター「シーホーク」(9月4日、米海軍のサイトより)

大統領選挙で議論されない最大の地球的課題

 2001年9月11日に発生した米国同時多発テロから今年で23年、約四半世紀が過ぎた。同事件は、冷戦後の米国の安全保障の課題を中東での対テロ戦に大きく傾斜させた。

 その後も、対テロ戦は依然として厄介な問題であり続けているが、過去十数年間に顕著となった中国の飛躍的台頭およびロシアの復活とウクライナ侵略によって、両国との競争や対立が激化し、世界は米国がいう中露2大国との「大国間競争(GPC)」あるいは「戦略的競争」に突入した。

 目下、米国では11月5日に行われる大統領選挙に向け民主党候補のカマラ・ハリス副大統領と共和党候補のドナルド・トランプ前大統領による予断を許さない激しい選挙戦が繰り広げられている。

 そのような中、9月10日夜(現地時間)、大統領選挙に向けた初のテレビ討論会が東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた。

 両候補は、約1時間半にわたり議論を戦わせたが、経済や移民、人工妊娠中絶問題などをめぐる応酬が中心となった。

 普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない中国やロシアの力による現行の国際秩序を破壊・変更しようとする試みに対し、米大統領としてどのように対処しようと考えているかについては、ほとんど言及されなかった。

 内政問題が討論会の主要テーマになるのは十分に理解できる。

 しかし、米国は国際社会に最も大きな影響力をもつ経済・軍事超大国であり、世界のリーダーである。

 2013年、米国のバラク・オバマ大統領(当時)は「米国は世界の警察官ではない」と宣言した。

 しかし、その後も米国は世界大国の役割を果たし続けており、また、今の国際社会には米国以外に真にその役割を果たせる国は存在しない。

 その米国の大統領選挙において、グローバル安全保障上の最大のテーマである中露との「大国間競争」について発言がなかったことには、憂慮の念を禁じ得ない。

 特に、中露と国境を接する日本をはじめ、地域覇権を狙う中国の攻撃的海洋侵出により深刻な脅威を受けている台湾、フィリピンなどの南シナ海周辺国にとってはなおさらである。

 いずれにしても、ハリス氏あるいはトランプ氏のどちらが大統領になろうとも、中露との「大国間競争」は、米国そして世界にとって国際安全保障上の最大かつ最も緊要なテーマである。

 世界の平和と安定を主導する立場から、新米大統領は早晩、その対処に関する基本的方針を明確に打ち出さざるを得ないだろう。