米国の中国との「大国間競争」と日本

 インド太平洋正面においては過去10年から15年にわたり、黄海から東シナ海、南シナ海に至る海洋正面が米中間の戦略的競争の場となっている。

 特に、尖閣問題を焦点とした東シナ海、武力統一も辞さないとする台湾、係争中の南沙諸島(スプラトリー諸島)における岩礁の埋め立て・人工島化・軍事基地化、そしてフィリピンやベトナムなど近隣諸国と競合する領土的主張に対する攻撃的、威圧的行動などである。

 このような中国の覇権的海洋侵出は、米国とその同盟国およびパートナーにとって戦略的、政治的、経済的に重要な地域において中国が実効支配を獲得しつつあるという懸念が高まってきた。

 そのため、2024年8月26日の議会調査局報告書「南シナ海および東シナ海における米中の戦略的競争:議会にとっての背景と課題」は、本地域における米国の潜在的かつ広範な目標として、次の諸点を挙げている。

・日本とフィリピンに対する条約上の義務を含む西太平洋における米国の安全保障上の義務の履行。

・条約同盟国およびパートナー国との米国の安全保障関係を含む西太平洋における米国主導の安全保障体制の維持と強化。

・米国とその同盟国およびパートナー国に有利な地域的な勢力均衡の維持。

・紛争の平和的解決の原則を擁護し、国際問題に対する「力こそ正義」という代替アプローチの出現に抵抗すること。

・航行の自由とも呼ばれる海洋の自由の原則を擁護すること。

・中国が東アジアの地域覇権国になることを阻止すること。

・中国との戦略的競争と関係管理に関する米国のより広範な戦略の一環としてこれらの目標を追求することなど。

 同報告書は、必ずしも以上の項目に限定されないとしつつ、さらに上記目標を達成する具体的目標を下記の通り呈示している。

・中国が南シナ海で追加的な基地建設活動を行うことを思いとどまらせること。

・中国が南シナ海で占領している場所の基地に追加的な軍事要員、装備、物資を移動させないこと。

・南シナ海のスカボロー礁で島の建設や基地建設活動を開始させないこと。

・中国が南シナ海で領有権を主張する陸地の周囲に直線基線を宣言することを阻止すること。

・南シナ海上に防空識別圏(ADIZ)を宣言させないこと。

・中国に対し、東シナ海にある尖閣諸島での海軍力による作戦を削減または終了させること。

・南沙諸島にあるフィリピン占領地に対する圧力をかけることを意図した行動を停止させること。

・スカボロー礁周辺海域または南沙諸島へのフィリピン漁民のアクセスを拡大すること。

・海洋の自由に関する米国/西側諸国の定義を採用すること。

・フィリピンと中国が関与する南沙諸島仲裁事件における2016年7月の仲裁裁判所の裁定の受け入れ、遵守を奨励すること。

 米国は、中国の覇権的海洋侵出の動きが、インド太平洋地域およびその他の地域における米国の戦略的、政治的、経済的利益に重大な影響を及ぼす可能性が大きいとして、以上述べた具体的目標の達成を追求して行くことが期待される。

 これらの目標は、あくまで、これ以上の中国の覇権的海洋侵出の拡大を阻止し、本地域における軍事的冒険を抑止しようとする試みにほかならない。

 これは、日本をはじめ第1列島列島線国の安全保障・防衛上の利益に合致するものであり、その意味で、米国の対中「大国間競争(戦略的競争)」戦略と協調的行動をとることは、極めて重要である。

 そのことが、ひいては米国の中国・ロシアとの「大国間競争」を勝利に導き、インド太平洋、さらには世界の平和と安全に資することになるのではなかろうか。

 つまり、これらを強力に進めることが、新米大統領に課せられ最大の地球的課題なのである。