中露両国重視か中国(インド太平洋)重視か

 中露2大国とのGPCの出現により、米国は、中露両国との同時または重複する大規模紛争に均等に備えるのか、あるいはどちらか一方の大国による侵略を優先的に打ち負かすと同時に、もう一方の大国による第2の戦域での侵略を抑止するとの選択を迫られている。

 後者は、いわゆる「アジア・ファースト(アジア第一、アジア優先)」といわれるものだ。

 インド太平洋における中国の潜在的な侵略を抑止し、対抗することに米国の資源を集中させ、欧州におけるロシアの潜在的な侵略と実際のロシアの侵略(ウクライナ侵略)を抑止し、対抗するために米国の資源を制限または削減する戦略を採用しようとするものである。

 冷戦後、米軍は2つの主要な地域的紛争を多かれ少なかれ同時に戦うことに焦点を当てた戦力構造計画を持っていた。

 その計画は、北朝鮮に対抗する能力を損なうことなく、中東の敵、つまりイラクやイランを決定的に打ち負かすことができるというものだった。

「2つの戦争戦略」である。

 2011年に緊縮財政が始まって国防費が削減され、2つの地域の敵を同時に扱うことが難しくなったため、2つの戦争戦略は徐々に衰退していった。

 そして、2014年のロシアによるウクライナ侵略後、米国が直面している世界は根本的に異なり、最大の敵は戦力の劣った「ならず者国家」ではなく、ロシアと中国という核戦力を有する手ごわい軍事大国へと代わった。

 両国は、米軍の戦力投射能力を無力化するために、相当な時間と資金、戦略・作戦的智力を費やしており、米軍内では、大国の挑戦者に対する1回の戦争でも、勝利するのは非常に困難になるだろうとの懸念が高まった。

 そこで、国防省は2018年のNDSで、米軍は大国の敵による侵略を打ち負かすことができると同時に、第2の戦域での侵略を抑止することができる戦力構造計画を発表した。

 そして、同NDSを基に、2022年のNDSでは、1つの大規模紛争を遂行する一方で、第2の大規模紛争を抑止するための規模の部隊を必要としていることを示している。

 その実際について、2022年5月12日の上院軍事委員会での公聴会で、当時海軍作戦部長だったマイケル・ギルデイ(Michael Gilday)海軍大将は、次のように答えている。

「私たちは、米国が持っている統合部隊(つまり、米軍全体)を最大限に活用し、それを可能な限り最善の方法でどのように運用するかを検討する必要があります」

「しかし、私たちは挑戦を受けることになると思います。ご存じの通り、現在、米軍は2つの同時紛争を処理できる規模ではありません」

「それは、1つと戦い維持するためのサイズで、2番目の敵を抑えるということです」

「しかし、2つという言葉、2つの全面的な紛争という点では、私たちはそれに適した大きさではありません」

 一方、中露は、2022年2月上旬の中露首脳会談において、両国関係の現状を「冷戦時代の軍事・政治同盟モデルにも勝る」と評価し、米国との競争・対立の激化を睨みつつ、一貫して協力関係、特に共同演習などを通じた軍事的連携を深化させている。

 中でも、海上における共同防衛をテーマとした両国海軍による共同演習「海上協力」が行われ、日本海や東シナ海など中国の周辺海域だけでなく、地中海やバルト海などロシアの周辺海域を含めて、ほぼ毎年実施している。

 また、中露両軍は、2019年から始まった中露の爆撃機を中心とした「共同空中戦略パトロール」や、2021年から始まった中露の艦艇による「海上共同パトロール」により、日本周辺の海空域における共同行動を一段と強化している。

 軍事的連携は実戦的な作戦面への協力へと進展していると見られる。

 このような中露の軍事的連携は、極東有事および欧州有事における戦略的策動を想起させるに十分であり、その可能性を否定することは危険この上ないと言わざるを得ない。

 そのため、日米NATO(北大西洋条約機構)の戦略的連携は不可欠であり、同時に、ユーラシア東西の当事国が米国の軍事力とコミットメントに過度に依存しない防衛体制作りが求められるところである。