(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年5月21日付)

亡くなったイブラヒム・ライシ大統領の写真にキスする男性(5月21日、写真:ロイター/アフロ)

 イランのイブラヒム・ライシ大統領がヘリコプターの墜落事故で死亡したことは、同国のイスラム指導体制と最高指導者のハメネイ師に衝撃的な打撃を与えた。

 強硬派の聖職者であるライシ師が、この国の未来を形作る急進的な政策を追求する傑出した大統領だったということではない。

 実際、歴史は間違いなく、その短い大統領在任期間は、改革派の政策を追求したモハマド・ハタミ師やイランが世界の大国と締結した2015年の核合意の立役者だった中道主義者のハッサン・ロウハニ師のような歴代大統領ほどインパクトがなかったと判断するはずだ。

最高指導者の後継候補の不慮の死

 だが、2021年にロウハニ師の後を継ぐ大統領に選出されたその瞬間から、ライシ師は政権の強硬派の影響力を固め、現在85歳のハメネイ師がやがて死去した時に最高指導者の地位のスムーズな継承を確実にする計画に不可欠な存在と考えられてきた。

 これは過去10年間のイランの政治を支配し、今後も支配続けるテーマだ。

 大統領選挙でのライシ師の勝利は注意深く――はっきり目立つ形で――演出されたもので、保守派や改革派の有力候補は出馬を禁じられた。

 63歳のライシ師はハメネイ師の弟子と見なされ、その時が来たら最高指導者の後を継ぐ有力候補と考えられていた。

 最高指導者を選出する組織で、ライシ師が2006年から名を連ねていた専門家会議のメンバーを選ぶ今年の選挙も、同じように念入りに演出された。

 ロウハニ師などは出馬を阻止され、イデオロギー色の強い次世代の強硬派が前面に出られるようになっていた。

 ハメネイ師は国の指導体制を整理しているようだった。