歴史上微妙な時期に選挙の洗礼

 大統領として多くのイラン国民の間で極めて不人気で、インフレが高進し、通貨リアルが急落するなかで経済の不振に苦しめられたライシ師が、実際にハメネイ師の後を継いだかどうかは、まだ答えが出ていない問題だった。

 もう一人、突出した後継候補はハメネイ師の息子のモジタバ師だ。

 だが、ライシ師は大統領として上司にあたる最高指導者に揺るがぬ忠誠を尽くし、保守派の間で共同戦線を張ることに貢献し、代々の政権を苦しめた内紛を避けた。

 ライシ師は来年の大統領選挙で再選を目指して出馬すると見られていた。その現職大統領が死亡した今、イランの憲法では50日以内に選挙を実施しなければならない。

 これはハメネイ師などの権力の中枢が次の選挙に向けて至急準備を始めなければならないことを意味し、国の歴史上、微妙な時期に体制に新たな挑戦が突き付けられることになる。

 ライシ師の死は、重要な国内、外交政策の決定には大きな影響を与えない。こうした政策は究極的にハメネイ師が決めるからだ。

 だが、大規模な反体制デモが相次いだ後、7カ月間にわたるイスラエル・ハマス戦争によって西側諸国とイスラエルの緊張が大きく高まっている時期に、イランは弱さや政情不安の兆しを見せることを嫌うだろう。