(英エコノミスト誌 2024年3月9日号)

米ペンシルベニア州の自宅で毎週、肥満症治療薬「ウゴービ」を打っているイバンカ・カールさん(2023年11月13日撮影、写真:ロイター/アフロ)

 ノボノルディスクとイーライ・リリーが今、大もうけしている。ただし、この2社の複占で市場が淀むことはない。

 体重を減らせる注射薬がブロックバスター(大型新薬)になった。そうなるのももっともだ。

 まず、「○○すればやせる」という根拠のない約束やインチキが何世紀も前から繰り返されてきたが、今度の肥満症薬は本当に効く。

 2030年までには世界の人口の半分近くが肥満か過体重になると見込まれているため、需要は確実に存在する。

 それ以上に興味深いのは、ほかの疾患の治療薬としても承認される可能性があることだ。

 臨床試験では心臓発作や腎臓病のリスクを低減できる可能性が示唆されており、ひょっとしたらアルツハイマー病についても同様な効果があるかもしれないと言われている。

 2020年代の終わりまでには肥満症薬の年間販売額が800億ドルに達し、製薬会社の売上高の内訳でトップクラスに入る薬剤になるかもしれない。

リリーとノボ、1兆ドルクラブの仲間入り視野

 こうした肥満症薬のメーカーであるデンマークの製薬大手ノボノルディスクと米イーライ・リリーへの投資熱が沸騰するのも不思議ではない。

「ウゴービ」とその姉妹品「オゼンピック」を製造するノボノルディスクの市場時価総額は2023年の年初から87%増加して5600億ドルに達し、欧州で最も価値の高い企業になった。

 一方、「ゼップバウンド」とその姉妹品「マンジャロ」を製造するイーライ・リリーの時価総額は、2倍以上の7400億ドルに膨れ上がった。

 どちらかが先に1兆ドルの大台に乗り、ほぼテクノロジー企業だけで構成されているエリートクラブに加わる可能性もある。

 ここに、こうした治療薬の生産量が限られており、価格が高いことを加えると、この新しい業界は製品価格をつり上げる伏線になっていくように思えるかもしれない。

 実際には、近いうちに市場の様相が一変することになるだろう。