2011年5月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会  

 福島第一原発事故発生当初、3月12日から16日にかけて原子炉建屋の爆発・火災が続きました。この時に大量の放射性物質が大気中に拡散し、原発北西部40キロ近辺まで高濃度の放射能汚染地帯が拡がっています。

 こうした原発から半径20キロ以遠で後に計画的避難区域に指定された地域では、多くの住民が避難することなく日常生活を続けてきました。

本来は様々な方法で内部被曝を実測するはずだった

 今回のように深刻な原発事故が発生した場合には、周辺住民が被曝している可能性が高いので、空間線量率から外部被曝を推測するだけではなく、様々な方法で内部被曝を実測することが、本来は日本政府の方針でした。

 こうした被曝測定の方針に従って、原子力安全委員会は「ホールボディカウンタ等の維持・管理等において踏まえるべき事項について」協議し指針案を公開しています。

 この案には、被災住民の内部被曝を測定するために用意された「移動式ホールボディカウンタ車」についての記述があり、次のように書かれています。

 「独立行政法人日本原子力研究開発機構では、移動式ホールボディカウンタ車を3台所有している。移動式ホールボディカウンタ車は、原子力施設に係る災害時において周辺住民が放射性物質を体内に取り込んだ可能性がある場合に、救護所、避難所等において全身の測定を可能とし、多数の人々について体内汚染の有無の迅速な判断に活用するためのものである。性能としては、Co-60(コバルト60)及びCs-137(セシウム137)について、2分間測定の場合で検出下限は130Bq(ベクレル)程度である」

 にもかかわらず、政府は、今回の原発事故の対応では、前述のように3台も準備されていた移動式ホールボディカウンタ車を原発周辺住民の内部被曝を測定するためには派遣していません。

 平成23(2011)年4月15日に開かれた衆議院・内閣委員会の議事録によれば、原発作業員の内部被曝を測定するために、福島県いわき市の東京電力小名浜コールセンターに1台派遣しているのみです。

 なぜ派遣していないのか理由は分かりませんが、政府が以前から用意してあった移動式ホールボディカウンタ車を被災住民のために福島県に派遣してこなかったため、今となっては、原発事故発生直後の内部被曝量を正確に評価することは残念ながら困難となっています。