クラウドおよびAIインフラの歴史に転換点

 これらの新常識に向き合うのは容易いことではない。「平時」を前提においたままの組織は、コストや各種の負荷を理由に対応を先延ばしにするだろう。

 しかしここに、興味深い数値がある。ここ数週間、AIベンダーのAnthropic社と米トランプ政権との対立が表面化し、トランプ大統領は同社の生成AIサービスであるClaudeを米軍関係の業務から締め出す姿勢を示した。

 ところがペンタゴンの内部評価では、ClaudeをOpenAIや他のモデルへ完全移行するには3〜6カ月かかると試算されていた。世界最大の軍事組織ですら、AIの切り替えにそれだけの時間がかかるわけである。事実、今回のイランに対する攻撃においては、トランプ大統領の方針に反し、米軍内での各種オペレーションでClaudeが利用されていたと報じられている

 民間企業が「いざとなれば使えるものを使えば良い」と思っているとすれば、それは過信だ。重要業務ほど依存が深く、切り替えコストも高い。もちろん平和が維持されるに越したことはないが、最悪の事態を想定して、それでも重要業務が維持されるようにいまから対応を進めておくべきだ。

 2026年3月1日は、クラウドおよびAIインフラの歴史に転換点として刻まれるだろう。大手テクノロジー企業のデータセンターが軍事紛争の渦中で物理的に停止し、金融機関を含む広範なサービスが巻き込まれたこと。その事実を、政府や金融機関だけでなく、多くの企業が重く受け止めなければならない。

小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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