戦時を前提にした「3つの新常識」
第1の新常識は、「リージョンが『丸ごと』消える可能性がある以上、同一国内の冗長化は無力になり得る」というものだ。
AWSのUAEリージョンは3つのAZで構成されていたが、今回はそのうち2つが同時に停止し、残る1つでもAPI障害が発生した。つまり「リージョン全滅」に近い状態だったわけである。
従来の可用性設計は「同じリージョン内で冗長化すれば十分」とされてきた。しかし、紛争や軍事行動は特定のサーバーではなく地理的エリア全体に影響する。
「メインが東京、バックアップが大阪でOK」ではなく、物理的に十分な距離があり、かつ同一の地政学リスクを共有しない場所に、最初から分散して動かしておく必要がある。保険をかけるのではなく、常に2本足で立つようにする。しかもその2本の足は、同じ地面の上に置いてはならないというわけだ。
第2の新常識は、「『データの置き場所はどこか』だけでなく、『それは計算を継続できる場所か』が問われる」である。
近年において各国が進めてきた「データ主権」(データを生み出した国・地域の法制度に基づいて管理・保護するという概念)政策は、プライバシーの保護や経済的競争力の維持に主眼が置かれていた。しかし今回、そこにもう1つの意味が加わった。有事に自国内で計算処理を継続できることという意味での「主権」である。
日本政府は経済安全保障推進法に基づき「クラウドプログラム」を特定重要物資に指定し、国内での計算資源の確保とサービス提供体制の強靱化を進めている。経済産業省は、日本が基盤的なクラウドの国内開発体制を確保できなければ、本来、自律的に管理すべき重要情報を含むシステムについて他国提供の基盤に完全に依存せざるを得なくなると指摘している。
今回の事態は、この認識が決して杞憂ではなかったことを証明した。データを国内に置いているだけでは不十分であり、そのデータを「動かし続ける」ための計算基盤が、有事にも機能するかどうかが本質的な問いになる。
ここで注意しなければならないのは、計算基盤を「意味のある形で」動かし続けるためには、その周辺にある要素にも注意しなければならないという点だ。