米国が「泥沼」にはまるのを待つ中国

 中国にとって米国が中東や南米で軍事介入することは短期的にはパートナー諸国の弱体化を招くが、長期的には中国の利益になると習近平国家主席は計算している。軍事力を行使すればするほど、米国は国力を消耗し、アフガニスタンやイラクと同じく「泥沼」にハマる。

 米国が中東や南米での紛争に軍事・経済リソースを割けば、中国が最も警戒するインド太平洋地域での対中包囲網に割ける米国の力が分散する。一方、パートナー諸国が弱体化すれば、生き残りのため中国の支援や技術への依存度が増す可能性が高くなる。

 イランが核武装して地域戦争の引き金になれば、中国への石油供給は滞る。韓国やオーストラリア、日本に“核武装ドミノ”が広がる可能性もある。実はイランの核武装より米国の圧力や軍事介入によってイランの核兵器開発が止まることの方が中国の国益に合致している。

 習氏にとってイランやベネズエラの問題は対米交渉の「譲歩の引き出し」になる可能性がある。習氏には「米国が泥沼にはまるのを待ちながら、弱ったパートナーをより安く、より深く中国の影響力下に取り込む」という冷徹なリアリズムが働いているとアブドゥ氏は読む。

 賽は投げられた。軍事力に頼るトランプ氏の「賭け」は吉と出るか、凶と出るのか。欧州では北京詣でが相次ぎ、すでに米国離れが加速する。「漁夫の利」を狙う習氏の長期戦略は奏功するのか。世界は重大な転換点を迎えている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。