「双方が出口のない“罠”にはまるプロセス」

 ベルリンに拠点を置くシンクタンク、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は「アブダビやジュネーブで直接対話が再開されたが、これは持続可能な平和ではなく、双方が出口のない“罠”にはまるプロセスだ」と指摘する。

 エネルギーインフラ崩壊や支援枯渇に直面するウクライナに対し、ロシアはドネツク州未占領地域の割譲や軍事支援の停止など実質的な“降伏”を要求し続けている。プーチン氏の狙いは領土獲得だけでなく、西側の影響を排除してウクライナを完全にロシアの勢力圏に取り込むこと。

 何らかの文書が署名されたとしてもかつてのミンスク合意のようにロシア側のサボタージュによって形骸化し、再び紛争へと滑り落ちるリスクが高い。「『見せかけの交渉』は『見せかけの停戦』と『見せかけの和解』をもたらすだけに過ぎない」

 スタノバヤ氏は「ロシアによる侵略の主な源泉は、西側に対する深い不信感と、西側がロシアに『戦略的敗北』を喫させようとしているという固い信念にある。この恐怖が続く限り、戦争が終わることはない」と、戦争がプーチンの宿命論的不信に起因していることを強調する。

 ロシア中央銀行の元アドバイザーでカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンドラ・プロコペンコ研究員は英誌エコノミストへの寄稿(2月16日付)で、現在のロシアの成長は軍事セクターによって支えられ、国内の予算を消耗戦のための兵器生産に回しているだけと指摘。登山者が極限状態で自分の筋肉を分解してエネルギーに変えるのと同じで「回復不能な自己破壊」が進行しているという。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。