フィギュアの理想型だった羽生結弦さんの演技
羽生さんはソチ五輪後、4回転ループを史上初めて跳んだほか、平昌五輪シーズンには自身初の4回転ルッツも成功。3大会連続出場となった北京五輪では、前人未到の4回転アクセルにも挑んだ。
ただし、「絶対王者」と称され、世界歴代最高得点を何度も更新した羽生さんの演技は、高難度の4回転や「世界一」とも評されるトリプルアクセルを操るだけではなく、繊細な指先の動きにまで神経を研ぎ澄ませた表現面での評価も群を抜いた。まさにフィギュアの理想形でもあった。
ソチ五輪と平昌五輪で金メダルを獲得した羽生結弦さんは、4回転を駆使したプログラムを演じた(写真:AP/アフロ)
一方、羽生さんが男子66年ぶりの2連覇を飾った平昌五輪で、ジャンプに大きく傾倒したのが女子だった。
ゆくゆくは5回転が実現する時代に?
15歳で金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワさんはSP、フリーともに、すべてのジャンプを基礎点が1.1倍になる後半に組み込み、GOEの加点を狙って両手を挙げて跳ぶなど、得点を意識した演技が物議をかもした。
ISUは五輪後、プログラムのバランスを重視するため、演技後半のジャンプの本数を制限するなどの修正を迫られた。そして、ミラノ・コルティナ五輪後の2026~2027年シーズンからは、男女ともフリーのジャンプ回数の上限を7回から6回に、連続ジャンプも3度から2度へそれぞれ減らすことも決まった。
共同通信は、表現面により比重を置く狙いで、関係者の話として、スピンとステップの基礎点を上げることも検討されていると報じる。
フィギュアでは、選手の安全面を保護するために禁止されたバックフリップ(後方宙返り)が、2024年に禁止規定が解除されて減点対象ではなくなった。加点対象の要素でもないが、ミラノ・コルティナ五輪の男子フリーでフランス選手が披露した。
朝日新聞は、バックフリップを跳んだ選手のプログラムを「いつも大胆で、自由で、多様」と紹介した。これは、フィギュアのプログラムが、ジャンプなどの技術力だけでは推し量ることができない、選手の表現や価値観を反映させていることを示唆しているともいえる。
もちろん、ジャンプの魅力も欠かせない。科学的なトレーニングの進化などにより、男子は5回転を視界にとらえる時代がきても不思議ではないだろう。五輪を一つの区切りとすれば、次の4年間はどんなスケートが評価を得るのか。
大技のジャンプか、プログラムの完成度かの論争に終止符が打たれることはなくても、新たな時代の潮流が、競技の魅力を高めてくれることに期待したい。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。


