人口の消耗という国家危機
ロシア軍の戦死・負傷者は米CSIS(戦略問題研究所)などによれば、数十万規模に達し、その中心は20〜40代の若年男性である。
彼らは労働力、出生率、技術革新の中核を担う存在であり、その喪失は国家の未来そのものを削り取る。
さらに、動員を恐れたIT・医療・技術者が大量に国外へ脱出した。地方では労働力が枯渇し、一部では農業・建設・物流が機能不全に陥りつつあるようだ。
都市部では専門職が、地方では労働者が消えつつある――。ロシアは未来を担う層から順に失われていく国家となった。
人口の空洞化は、戦争が終わった後の再建能力を著しく損なう。ロシアは今、国家の未来を削りながら現在の戦争を維持するという構造に陥っている。
国民生活の崩壊と体制の安定
医療現場は疲弊し、薬品は不足、地方の病院では故障した機器が放置されるそうだ。
住宅インフラの老朽化も著しく、冬季には暖房すら確保できない地域が生まれているという。食料価格は上昇し、生活必需品の入手が困難になりつつあるようだ。
それでも暴動が起きないのは、情報統制と治安機関の肥大化が機能しているからであろう。
ロシアでは、庶民の不満だけでは体制は揺らがない。体制は、国民生活の悪化よりも、治安機関の忠誠と情報統制によって支えられている。
国家より体制を守るロジック
プーチン氏にとって最も恐ろしいのは、戦争に敗れることではない。敗北を契機に政権が崩壊することである。
だからこそ、戦争の目的は領土の獲得でも国家の安全保障でもなく、体制の延命へと収斂していく。
国家の寿命が削られようと、若者が戦場で失われようと、国民生活が崩壊しようと、体制さえ生き残ればよい。実は、このロジックは以前からロシアの政策全体に深く浸透している。
この構造は現代のロシアに固有のものではないからだ。
日露戦争期のニコライ2世もまた、国家の疲弊より王朝の存続を優先し、明石元二郎による革命勢力支援が帝政崩壊の危機を生んだことで講和を決断した。
戦場の敗北ではなく、体制崩壊の危険が講和を決めたのである。
プーチン体制も同じである。国家を守るためではなく、体制を守るために国家を削る――。この逆転した優先順位こそが、ロシアの継戦能力の真相である。