しぶしぶながらフロンティアを開拓する

 生物は地球上のあらゆる場所に存在し、さまざまなエサを食べて暮らしている。それは多くの生物が新たな場所を開拓し、エサを探して生き延びてきた苦難の歴史の結果であろう。

 しかし考えてみれば、生物が自ら望んで不慣れな環境に飛び込み、おいしくもないエサを食べようとするだろうか。

 ちょっと発想は異なるが、YouTubeのショート動画ではシベリアンハスキーがコタツを片付けられて悲しい顔をしている。犬がコタツを本来知るはずもないが、心地よいからそれを好むようになるわけだ。生物は必要もないのにわざわざ望んで劣悪な環境に飛び込まない。

 それでも生物が新たな環境に出ていくケースはいくつかある。繁殖干渉はその原因の一つで、元の住みよい環境を別の種に乗っ取られて戻れなくなることが大きい。元の環境に戻れるのであれば、新しい環境への適応は進みづらい。

 私は、初めて陸上に上がったイクチオステガのような両生類も、繁殖干渉によってしぶしぶ陸上に上がったのではないかとさえ考えている。彼らにとっては水中の方が楽に決まっているのに、乾燥し、重力のきつい陸にわざわざ上がったのは、別種からの繁殖干渉で水中に「いられなくなった」のではないだろうか。

 フロンティアを開拓するというのは、必ずしも勇敢な物語ばかりではない。1900年代初頭、アメリカの映画製作者たちが西海岸を目指したのは法律の規制や特許の取り締まりから逃れるためだったという。「戻りたくても戻れない」という絶望的な状況が、結果として劇的な進化のトリガーとなってきたのだと考えている。
 
【参考文献】
◎Kishi S* & Tsubaki Y (2014) Avoidance of reproductive interference causes resource partitioning in bean beetle females. Population Ecology 56:73‒80. https://doi.org/10.1007/s10144-013-0390-5
◎Ohata M (2025) Effect of female body size on courtship preferences of males in two Pierid butterfly species: Pieris melete and P. napi. Entomological Science 28: e12614. https://doi.org/10.1111/ens.12614
◎Ohsaki N, Ohata M, Sato Y & Rausher MD (2020) Host plant choice determined by reproductive interference between closely related butterflies. American Naturalist 196:512–523. https://doi.org/10.1086/710211
◎高倉耕一・西田隆義(2018)繁殖干渉 -理論と実態-.名古屋大学出版会.

岸茂樹(きし・しげき)
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)上級研究員
愛知県出身。2000年東京大学農学部卒業後、京都大学大学院農学研究科で修士号、博士号取得修了。農研機構上級研究員。専門は昆虫生態学で、農業分野の研究に取り組む。著書に『繁殖干渉-理論と実態-(共著、名古屋大学出版会、2018)』『虫がよろこぶ花図鑑(共著、農文協、2025)』などがある。博士号を取得後、2009年から11年まで広告代理店での勤務も経験。趣味は写真。大学院在学中の2004年にテレビ番組「あいのり」にハカセとして出演。