アメリカで昨年、大発生した周期ゼミ。13年ゼミと17年ゼミが221年ぶりに同時発生した(写真:AP/アフロ)
(岸 茂樹:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員)
うだるような夏の暑さの中、街路樹や公園に響くセミの鳴き声。その声を聞いて「今年も夏が来た」と感じる人も多いだろう。だが、ふと耳を澄ませば、聞こえてくるのは昔ながらのアブラゼミではなく、勢いよく鳴くクマゼミのシャーシャーという音ばかりではないだろうか。
幼いころに名古屋に住んでいた私も夏になるとよくセミを捕まえたが、それらはほとんどアブラゼミだった。ところが今では、地元に帰るとクマゼミの鳴き声ばかりが聞こえてくる。実際、西日本ではアブラゼミが減り、クマゼミが増えつつある。
この“セミの主役交代”は温暖化だけでは説明しきれない、都市化と自然選択のメカニズムが潜んでいる。
さらに目を世界に向ければ、周期が素数年に固定された「素数ゼミ」の不思議な進化のロジックが浮かび上がる──。都市の真ん中で鳴くセミの声から、遥か彼方のアメリカで周期的に現れる素数ゼミまで、「自然選択と進化」の視点から夏の自然を読み解いてみたい。