幻となった「玉木首相」
首相指名選挙は衆参の本会議で行われます。投票用紙を手にした各議員が本会議場中央の議長席の方に向かって行列を作り、議長席近くの投票箱に1票を投じていく――。そんな光景をテレビ中継で見たことのある人も多いでしょう。
通常、各議員は自らの所属政党の党首に1票を投じますから、首相指名選挙は各党の議席数をそのまま反映した格好になることが通例です。その意味では、「自民圧勝」のような状況下で行われる首相指名選挙は、一種のセレモニーと言えるかもしれません。
しかし、過去には首相指名選挙で激烈な戦いが繰り広げられたこともありました。象徴的なのは、1回目の投票で誰も過半数を取れず、上位2人による決選投票に進んだケースでしょう。決選投票は過去に5回。最も新しいのは、高市早苗氏が首相に選ばれた2025年10月です。
図表:フロントラインプレス作成
この直前に行われた衆院選で自民党は「裏金問題」について有権者の激しい批判を浴び、連立相手だった公明党を含めても215議席しか獲得できませんでした。過半数の233に15議席も足りません。
実際、衆院の首相指名選挙における高市氏の得票は237票。過半数までの票差は4票という際どいものでした。参院の首相指名選挙では高市氏は過半数に届かず、立憲民主党・野田佳彦代表(当時)との決選投票でようやく過半数を制することができたのです。
このときの首相指名選挙では、各党間の事前の駆け引きも活発でした。公明党が連立から離脱する動きが表面化するなか、野党第1党の立憲民主党・安住淳幹事長(当時)が首相指名選挙について他の野党党首に一本化することも視野に入っていると発言。国民民主党の玉木雄一郎代表が指名される可能性が急浮上したのです。
当の玉木氏は「可能性が上がってるとは思いません」「単なる足し算でどうこうするものではない」などと煮えきらない発言を続けた一方、公明党の離脱が決定的になると、「内閣総理大臣を担う覚悟はあります」と何度も強調しました。こうした二転三転する姿勢が逆にマイナスになったとされ、あえなく「玉木首相」は消えてしまいました。
このとき仮に野党や玉木氏が違う動きを見せていれば、あるいは、衆院の首相指名選挙で数人の議員が高市氏以外に投票していれば、首相指名選挙は衆院でも決選投票にもつれ込み、その結果、高市政権は誕生していなかったかもしれません。