主食用コメ増産が言いにくい政治、価格と票田が縛る食料安全保障

 高市氏は昨年12月8日の衆院本会議で、「国内主食用、輸出用、米粉用など『多様なコメの増産』を推進する」と述べている。

 昨年の高市政権発足後、石破茂前政権が目玉政策として推進していたコメの大増産を翻し、再び生産調整へと軌道修正するような姿勢を見せたため、各方面から批判が出たことへの“釈明”とも見られる。

 おそらく高市氏は、岩盤支持層のご機嫌を損なわないよう、「国内主食用ではなく輸出用や米粉用のコメを増産するという意味」と糊塗したのだろう。

 だが、依然として自民党は公約として「需要に応じた生産・販売を、精度を高めた調査に基づいて進める」と掲げたままで、「増産」を示唆する高市氏とは食い違いや矛盾が生じているのも事実だ。

 これまで政府は90万トン強の規模で備蓄米を確保してきたが、この保管コストは年500億円弱。仮に日本国民が1年間に消費するコメの量、約700万トンに若干上乗せし、1000万トンを備蓄したとして、スケールメリットなどを考慮せず、単純に保管費などが備蓄量に比例すると仮定すると、単純計算で保管コストは約5000億円となる。

 一見高額に思えるが、2027~28年に2隻が海上自衛隊で就役予定の「イージス・システム搭載艦」は1隻が1兆円弱の模様だ。これと比べれば、1億2000万人の国民が1年間消費する主食を5000億円で確保できるのだから、安全保障に対する経費として考えればむしろ安いぐらいだろう。

 トランプ氏は以前から同盟国・パートナー国に対し、「防衛費を対GDP比5%まで増額せよ」と執拗に要求し続けているが、「5000億円」のコメ備蓄費用は「自衛隊の兵糧を強化するための安全保障関連費」とアピールすることもできる。

 今年1月下旬に公表された米国家防衛戦略(NDS)でも、新たな世界基準として「中核的な軍事支出3.5%」(兵員や武器・弾薬など軍隊の戦力増強への直接投資)の“真水”に加え、「安全保障関連支出1.5%」(道路や橋梁、港湾、空港などインフラを軍事転用できるよう改修する工事費など)も加えて、5%とすることを要求し、他のNATO加盟国の大半は渋々応じた状況だ。

 トランプ政権はまだ正式に「防衛費5%」を日本に要請はしていないが、3月19日に高市氏をワシントンに招待して首脳会談を行う意向で、ここで「5%」を切り出す可能性が高い。

 あとは高市氏が、「備蓄米の維持管理費は安全保障関連支出」と、トランプ氏に納得させられるかが、腕の見せどころだ。

高市首相はトランプ氏の防衛費引き上げ要求にどう対応するのか(2025年10月にトランプ米大統領と会談した高市首相/写真:共同通信社)

 2月9日に自民党本部で会見に臨んだ高市氏は、2022年12月に閣議決定された安保三文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を「前倒しで改定する」と改めて表明し、継戦能力のさらなる強化も盛り込むと考えられる。

 一方で、その核心である兵糧、つまり主食備蓄の議論が、まだ前面に出ていない点が気になる。農地が少ない島国の日本は、いざという時に海上輸送が滞れば途端に食料が細るという弱点を抱えている。だからこそ主食のコメを含む穀物の生産力と備蓄量は、平時には目立たないが、有事には国家の持久力を左右する中核となる。

 高市政権が試されているのは、兵器や装備の数ではなく、兵站を国家戦略として示せるかどうかだろう。先の大戦で、旧日本軍は世界最大・最先端の戦艦「大和」「武蔵」を世界に誇ったが、一方で兵站の軽視・欠如は酷く、継戦能力とは程遠い状況で、敗戦の遠因ともなっている。

 防衛費の額や装備の華やかさだけで安全保障を語れば、肝心の足元が抜け落ちてしまう。第2次高市政権の真価が問われるところだ。