トランスジェンダーの定義や権利をめぐる議論は活発かつ複雑なものになっている(写真:nito/shutterstock)
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 トランス女性(出生時は男性だが女性に転向した人)の女子スポーツへの参加を禁じた州法をめぐり、米連邦高裁は1月13日に口頭弁論を開いた。判断が下されるのは6月末の予定だが、現時点では「参加の禁止は違憲とは言えない」という発言が多く見られる。

 日本では、性同一性障害特例法においては、戸籍上の性別を変更する場合には、性器の外観も変えるよう求めているが、この法律に対して全国で少なくとも5件の違憲判断が出ていると2025年9月に最高裁が明かした。トランスジェンダーの定義や権利をめぐる議論は世界的にますます活発になり、同時に複雑なものになっていく。

 トランスジェンダーをめぐる議論はどのあたりに難しさがあるのか。『ジェンダーの終焉 性とアイデンティティに関する神話を暴く』(北新宿出版)の翻訳を手掛けた経済学者の森田成也氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──この本はどんな本ですか?

森田成也氏(以下、森田):この本は性的マイノリティのことを広く論じていますが、主に扱っているのはトランスジェンダーに関する議論です。こうしたテーマを扱う本では、トランスイデオロギー(※)を支持する立場の人々が書く本が、これまで主流でした。

 これに対して、トランスイデオロギーを批判的に考察する本も少しずつ出てくるようになっています。デブラ・ソー氏の本は、どちらかといえば批判的なタイプの本です。

※トランスイデオロギー運動:生物学的な性別よりも個人の内面的な「性自認」を優先し、本人の性自認に合わせた社会制度の構築を求める運動。「トランスジェンダリズム」とも呼ばれる。

 批判派の中にもそれぞれ異なる主張がありますが、これまではラディカル・フェミニストと呼ばれる女性の権利を擁護する立場からの批判が主流でした。

 それに対して、デブラ氏は主に科学の公正性の観点から、トランスジェンダーを含む性的マイノリティを分析して論じています。またこのテーマをイデオロギーではなく科学的に公正に語る学問の自由の大切さを強く訴えています。

 一方でデブラ氏は、トランスコミュニティ(トランスジェンダーの人々)の平等や人権などは擁護されなければならないと述べています。つまり、自分の性別に違和感を覚える人を傷つけないように配慮することもまた大切だと言っているのです。

──トランスジェンダーとインターセックスは何が違い、またいかに重なる可能性があるのかという点についてデブラ氏は説明しています。インターセックスとはどのような人たちですか?

森田:インターセックスは、日本では「性分化疾患(DSD)」と呼ばれます。人は胎児の時点から、男女で肉体の特徴が分かれています。これを性分化と言います。ところが、数はとても少ないですが、さまざまな理由からうまく性分化がなされない人もいます。こういう人をインターセックスと呼びます。「インター」は中間という意味です。

 染色体のレベルでは男性なのに男性器が外に出ておらず、身体の内部に収まったままというケースがあります。この場合、一見すると女性のように見えますが、科学的に調べると男性であることが分かります。

 人間の場合、XX染色体が女性で、XY染色体が男性ですが、人を男性にするY染色体にあるSRY遺伝子が働いていれば、性器が男性らしく表に出ていなくても、肉体は全般的に男性っぽくなっていきます。特に第二次性徴が始まると明確になります。この人は明確に男性です。

 もっと複雑なケースは、外性器が外に出ておらず、さらにY染色体のSRY遺伝子が機能していない例です。こうなると第二次性徴期になっても身体が男性化しません。この場合、Y染色体を持っていても「女性」に分類されます。

 このように、身体が本来の性別にふさわしい状態にならない状態をインターセックスと呼びます。このインターセックスとトランスジェンダーは違います。トランスジェンダーの人は、性染色体やSRY遺伝子に問題があるわけではありません。ただ、性自認が自分の生物学的性別とは反対の性別にあると感じるだけです。