「にせだぬきじる」と「にせたぬきじる」の違い

水野:さらに、言語学的には一般化できていなくても、僕たちが「この言葉とこの言葉をくっつけたら連濁するか」という点について、何となくコンセンサスを持っているという点が非常に興味深いと感じています。

 たとえば、「青(あお)」と「橋(はし)」をつなげたら、どうなると思いますか。

──「あおばし」と言いたくなります。

水野:僕もそう思います。

 こんなふうに、日本語の知識を持っていると、なんとなく「『あおばし』かな」と思う。日本語話者は無意識のうちに、連濁が起こるかどうかを判断している。明文化されたルールを知らなくても、頭の中に「なんとなくの連濁の法則」が確かに存在しているのです。

 余談ですが、「にせだぬきじる」と「にせたぬきじる」の違いがわかりますか。

──前者は「たぬき」の偽物で作った汁、後者は「たぬきじる」の偽物、でしょうか。

水野:そうです。「にせだぬきじる」では「たぬき」の頭文字が濁音化しており、「にせ」と「たぬき」が直接結びついていることがわかります。「にせだぬき」、つまり、たぬきの偽物です。

 一方で後者の「にせたぬきじる」では「たぬき」に連濁は起こっていません。「にせ」と「たぬきじる」がくっついた、偽物のたぬきじるだと、解釈できます。連濁の有無によって文章の意味が変わってしまうのです。

 僕たちは、「にせだぬきじる」と「にせたぬきじる」も知らないのに、なんとなくその違いがわかってしまう。これは、複合語をつくりながら、連濁するときのメカニズムが僕たちの脳内にあって、その知識を参照しているということです。

 にもかかわらず、言語学者は一般化できていない。これは、言語学者が怠けているからではなく、それほど連濁が複雑で奥深い現象であることの証明なのです。

水野 太貴(みずの・だいき)
編集者
1995年生まれ。愛知県出身。名古屋大学文学部卒。専攻は言語学。出版社で編集者として勤務するかたわら、YouTube、Podcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める。著書に『復刻版 言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス・パブリッシング)、『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』(KADOKAWA)がある。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。