欧州の安全保障、5つのシナリオ

(1)対立:現状の延長線上にあり、世界がより対立的になるシナリオ。NATOを軸とした強固な大西洋間関係が維持される。中露との対立が深まる中、欧州は引き続き米国の軍事力と核の傘に依存し、伝統的な防衛体制を継続。

(2)欧州型NATO:米国が欧州の安全保障から徐々に後退し、欧州諸国が自立を迫られるシナリオ。NATOの枠組みは残るが、欧州諸国が「欧州の柱」として主体となり、国内総生産(GDP)比5%以上など防衛予算の増額や独自の軍事能力を大幅に強化。米国の関与が低下しても地政学的なアクターとして機能し続ける。

(3)欧州防衛共同体:EUが自身の軍事的な意思決定能力を持ち、独自の防衛体制を確立するシナリオ。NATOへの依存をさらに減らし、EU自身が戦略的自律を達成。司法・外交・軍事が一体となった「欧州統一軍」に近い枠組みや、欧州独自の防衛産業ネットワークを強化し、欧州の利益を最優先に行動。

(4)パッチワーク:最も混乱し、断片化された「破壊的」なシナリオ。強固な同盟関係が崩壊し、欧州諸国がそれぞれの国益に基づいて個別に安全保障上の調整を行う。共通の防衛の枠組みがないため、欧州が大国の勢力争いの草刈り場となり、EUとその主要国が国際社会で地政学的な重みを喪失するリスクを孕む。

(5)協調的な共存:国際環境がより協調的になり、対立が緩和されるシナリオ。大国間の緊張が緩和し、対話と協力に基づいた汎欧州的な安全保障構造が再構築される。長期的なスパンで起こり得ると想定。

 すでに(1)と(5)のシナリオは消え、(2)と(3)の間のどの地点に着地できるかが欧州の現実問題になっている。着地に失敗すれば(4)のカオスが待ち受ける。ウクライナ支援に不満を募らせる極右が台頭する中、欧州は選択と行動を迫られている。

 第二次大戦後、欧州統合を進めてきた危機バネは果たして働くのか、予断を許さない。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。