「基調的な物価」はブラックボックス

——最近の日銀の情報発信はどう評価していますか。

河田:去年と比べれば、かなり改善してきたと思います。いわゆる「植田ショック」と呼ばれた昨夏の株価急落を受けて、会合直前にボードメンバーが講演を行うなど、市場との認識のズレを減らそうとする努力が明らかに見られます。

 一方で、以前からの課題ですが、「基調的な物価上昇率」が何を指すのか分かりにくい。この点が曖昧なため、市場は政策の方向感を持ちにくく、ボードメンバーの発言に頼らざるを得ない状況になっていることが課題だと思います。

高市首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

——「基調的」という言葉は受け止め方によって違うと思いますが、日銀は解釈に幅を持たせているということですか。

河田:一時的な変動を除いた基調で判断するという考え方自体はどこの中央銀行でも同じだと思います。ただ実際には、さまざまな圧力の中で「基調的」という言葉をブラックボックスにして、裁量を確保しようとしている面は否定できません。

唐鎌:ECB(欧州中央銀行)は「総合インフレ率2%」を重視する立場だと思います。人々の生活には食料もエネルギーも必要なわけで、結局、総合ベースで見るのが肌感覚に最も近いでしょう。総合、コア、欧米型コア、日銀版コア——普通の人には関係のない話です。家計が感じている痛みは、ヘッドライン3%に近い。物価の系列を増やせば増やすほど、金融政策は分かりにくくなっています。

 中央銀行は全部の系列を見た上で基調を判断すればよいと思いますが、一般社会ではあくまで総合ベースで生活が営まれているでしょう。

 毎月、「今回は米だから」「今回は補助金だから」と理由を変えて利上げを先送りしています。コストプッシュかディマンドプル(需要インフレ)かは関係なく、値上げされた価格を人々が支払っている以上、インフレは定着しています。

河田:特殊要因は除けばいいという発想は、異次元緩和以降、かなり染みついたと思います。2014~15年の原油安局面でコア物価がマイナスになった際、エネルギーを除いた指標で説明を乗り切った経験が、一種の成功体験になったのでしょう。結果として、都合の悪いものを次々に除く癖がついてしまいました。しかし、家計は総合ベースで実質購買力を削られてきたのは事実です。都合の悪いものは「除く」文化は、そろそろ損切りした方がいいと思います。

YouTubeの公式チャンネル「INNOCHAN」で全編を公開しています。チャンネル登録もお願いします。