信号機に依存する設計の限界

 今回の事例は、信号機に依存する設計の限界を示しました。同時に、周囲の人間や車両の意図を、より高度に推定する必要性も浮かび上がったのです。

 この出来事に対し、テスラのCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏は、ウェイモの対応を批判しました。

 同氏は、自社のカメラ中心の自動運転技術であれば、停電時でも機能したと発信しています。

 ここで重要なのは、どちらが正しいかという議論ではありません。両社は、全く異なる前提で自動運転を設計しています。

 ウェイモは、都市インフラと協調することを前提にしているのです。テスラは、人間の運転に近い振る舞いをAIに学習させる方向を選んでいます。

 前者は制度との整合性を重視し、後者は現場適応力を重視していると言えるでしょう。

 マスク氏が掲げる「エンド・ツー・エンド(端から端まで)」の学習モデルは、正解のない場面での突破力に優れます。

 しかし、それは裏を返せば「なぜその時、その判断をしたのか」というプロセスがブラックボックス化するリスクをはらんでいます。

 ウェイモが選んでいるのは、突破力よりも、社会に対する「予測可能性」と「説明責任(アカウンタビリティ)」を重視する、極めて堅実なインフラ企業の道と言えるでしょう。

 専門家の中には、自動運転は多くの場面で人間より安全だと評価する声もあります。この評価自体は、過去の事故統計や挙動分析に基づくものです。

 ただし今回のようなケースは、統計では測りにくい領域になります。