現在は6回目の大量絶滅の時代か

──トバ・カタストロフ仮説については、現在さまざまな議論がなされているそうですね。

佐野:約7万4000年よりも後も、アフリカの人類遺跡で連続的な文化痕跡が見られることなどから、トバ噴火による人類の減少はそれほど壊滅的なものではなかったのではないかと指摘されています。

 また、植物化石の研究からも、トバ噴火後に地球上で著しい寒冷化が起こったことは確認されていません。

 このようなことから、現在ではトバ・カタストロフ仮説について比較的否定的に見られる傾向にあります。トバ火山の噴火は、人類を絶滅寸前に追いやるほどのインパクトはなかったのだと考えられています。

 けれども、過去に人類の遺伝的多様性が大きく失われた時期があったことは確かです。この点は、今後の研究が期待されます。

──一部の研究者の間では、現在、地球は6回目の大量絶滅の時代に突入したと言われています。

佐野:大量絶滅の時代に入ったか否かは、数万年の単位で考えなければわかりません。

 私たちがこれまで研究してきたビッグ・ファイブは百万年という単位で生物の種が激減するようなイベントです。一方、私たち人類が地球環境に影響を及ぼし始めたのは、産業革命以降で、ここ200年、300年の話です。

 仮に6回目の大量絶滅の時代に入っていたとしても、それに気づく前に私たち人類が滅亡してしまう可能性もあるのです。

佐野 貴司(さの・たかし)
国立科学博物館理学研究部長
1968年、静岡県生まれ。1997年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。富士常葉大学助教授、国立科学博物館地学研究部研究主幹、グループ長などを経て、現職。地球科学者。研究対象は火山および火山岩であり、主に超巨大火山(巨大火成区)を調査している。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。