人類が経験した「スーパー噴火」とトバ・カタストロフ仮説

──大量絶滅の裏には超巨大火山の活動があるとあります。超巨大火山の活動というのはある時は多様性を増やして、またある時は絶滅をもたらすともありますが、これはどのような意味ですか。

佐野:例えば、白亜紀の中頃から後半にかけては、地球上でいくつもの大きな火山が立て続けに小規模な噴火をしました。これにより、大気中にほどよい量の二酸化炭素が放出され、比較的温暖な気候になりました。温暖な気候は、生物の多様性を増大させます。

 一方で、ペルム紀末に起こったシベリアの超巨大火山は非常に大規模なもので、地球環境を一気に変えます。すると、生物はその変化に対応できずに絶滅してしまう。

──ビッグ・ファイブを引き起こした超巨大噴火ほどではないにしろ、人類は約7万4000年前にスーパー噴火を経験したとあります。

佐野:258万8000年前から現在までにあたる地質時代は第四紀と呼ばれ、これは人類の時代でもあります。

 約7万4000年前に起こったとされるインドネシアのスマトラ島のトバ火山の噴火は、第四紀では最大の噴火と言われています。噴火の規模は、富士山の体積20個分ほどの火山灰が、たった1回で噴出するほどだったと言われています。

 一方で、第四紀で2番目に大きな噴火は約2万5000年前に起こったニュージーランド北島のタウポ火山の噴火です。この噴火では、富士山の体積1個分ほどの火山灰が出ました。

 このように、タウポ火山とトバ火山の噴火の規模は火山灰の噴出量で約20倍の違いがあります。トバ火山の噴火の規模の大きさを物語っていると言えるでしょう。

──約7万4000年前のトバ火山のスーパー噴火は、人類にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

佐野:トバ・カタストロフ仮説というものが提唱されています。これは、トバ火山の噴火は地球規模の寒冷化をもたらし、当時の地球上の人口が1000人から1万人程度まで激減してしまったという仮説です。それにより、遺伝的多様性が大きく失われた可能性(個体数のボトルネック)が考えられます。

 集団が極端に小さくなると、後世に残される遺伝子バリエーションが少なくなります。つまり、個体数が回復していっても遺伝的多様性は増えません。

 実際に、遺伝学的に現生人類の遺伝的多様性は霊長類としては低いことが明らかになっています。つまり、過去に集団が非常に小さかった時期があると推定されるのです。